2017年11月13日月曜日
右城暮石「鱧ちりの氷を白布にて砕く」(『右城暮石の百句』)・・
茨木和生『右城暮石の百句』(ふらんす堂)、ブログタイトルにした句は、暮石句集『天水』所収、昭和59年作とあり、その解説(鑑賞)は以下のように記されている。
梅田のビルの一階を借りて、安騎生さんの奥さんが料亭『井戸平』を営んでおられた。板前料理だったが、その魚は絶品だった。前登志夫さんや中上健次さんも何度かここにこられた。この句、先生ええ鱧が入っていますといって、後藤綾子さんと私も一緒に招待を受けた。板前さんは目の前で、鱧ちりに敷く氷を白布に包んで、すりこ木のような棒で打ち砕いていた。私など食べること、飲むことだけだが、先生の目は違うと感心した一句である。このときの後藤さんの句は「老すすむ湯攻めの鱧の縮む間も」である。
あるいは、また、「ふたたびは会ふこともなき滝仰ぐ」暮石(『一芸』・昭和62年作)の句には、
句に前書をつけなかった暮石先生だが、この句には「兵庫県大屋町天滝 三句」とあり、(中略)先生は八十八歳、無理をさせてはならないと、藤本安騎生さんと私は代わる代わるに先生を負ぶって登った。「予は満足じゃ」というのが滝を見ての感想。
著者・茨木和生は暮石に師事して以来、暮石の作句のほとんどの現場に立ち会っている。そしてまた、藤本安騎生も茨木和生と同じく、行く先々を車で案内し、同行しているように思える。師弟とはその生活を、共にする人のことではないかとも思わせる。そこには俳句を通しての実に濃密な関係が想像される。ともあれ、本書より、いくつかの暮石の句を以下に挙げておきたい。
大和どこも団栗柴の黄ばむ頃
狐かと南瓜の花に駭きし
大学生最後まで観る後宴能
上掲の大学生は茨木和生のことらしい。
いつからの一匹なるや水馬
薬莢の笛猟犬を呼び戻す
妻の遺品ならざるはなし春星も
茨木和生(いばらき・かずお)昭和14年、奈良県生まれ。
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