草場白岬句集『成木責(なりきぜめ)』(ふらんす堂)、集名は巻頭の句、
思ひ出せぬ暗証番号成木責 白岬
より。跋文に長谷部文孝、それには、
作者は、暗証番号を思い出せないというネガティブな現象に対して少年期の記憶を呼び覚まし、「成木責」をバネにしたポジティブな現状把握に切り替えた。
それは高齢者が前向きに生存し続ける意欲のあらわれともとれる。
私への跋文依頼も、伝統的な風習の季語を使って、私に「なるか、ならぬか」と問いつめてきたのではないだろうか。だとすると、私としては、「なります、まります」と応えるしかない。
と敬意を込めて述べている。著者はいえば「あとがき」に、
田舎者の、加えて怠惰気質の作者には、常に「成木責」のような外圧がなければ生き続けられなかったように思うのである。
そして、その外圧こそが作者の今日を形成した原動力であったことに今更ながら気付いているところでもある。
という。句は全体的にユーモアもあるが滋味を感じさせる印象である。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておきたい。
野の青のその大方のいぬふぐり
菖蒲湯に老いの浮力と児の浮力
満員のバスの持ち去る片かげり
原爆忌二つある国千羽鶴
熱燗や夢ありし日と無き今と
森の翳ちぎれて生るる黒揚羽
知らぬ子に手をつながれし初詣
花は葉の葉は花の蔭遅ざくら
広告を募る広告万愚節
赤い羽根外さず通夜の席にをり
草場白岬(くさば・はくこう)、昭和8年、佐賀県生まれ。
撮影・葛城綾呂 白木蓮↑
0 件のコメント:
コメントを投稿