2018年5月7日月曜日
舛田傜子「浦上の空蟬が鳴く骨が泣く」(『陶器の馬』)・・
舛田傜子句集『陶器の馬』(文學の森・私家版)、今時、贅沢といえば贅沢な本作りで、帙入り、本文は三椏の和紙に活版印刷である。集名は、以下の句に因んでいるだろう。
陶器の馬二頭洗って大つごもり 傜子
作者には、掲句以外にも「二」の数字を含む句が意外にある。いずれも佳句である。例えば、
二丁目の盆踊り三丁目の闇の中
寒柝を湯で聞く平成二年元旦二時
たくあんの尻尾叩いて春二番
パンジーの二重瞼は未来さす
百二歳神馬炎暑の眼がしずか
楕円形の淋しさ二月の茹で玉子
トマト八つ切り二句一章の雲の峰
楠若葉石仏二体瞑想中
去年今年トンネル二つ真っ向に
という具合である。また、自分史を記した「あとがき」の冒頭には、
この度、それまでまったく出すつもりのなかった句集を、ふと思い立って出すことにした。それならもっと若い時に思い立てばよいものを、生きるか死ぬかの大病(大動脈解離)をして、その後も大腿骨頭壊死で足の手術やら、転倒して脳外科に入院、手首の骨折、脊柱管狭窄症等々・・・ほんとうに満身創痍の身になってから思いつくとは・・・
(中略)
そして、私の入院、手術の時には親身に立ち会い見守ってくださった句友の皆さんには感謝してもしきれない思いです。皆さんあっての私です。
と、読めば、他人ごとながらいささか切ない。句は、隈治人「土曜」、前川弘明「拓」、金子兜太「海程」、また「九州俳句」に学んだとあった。実は本句集は山本奈良夫より代送されてきた一本である。ともあれ、以下に幾つかの句を挙げておこう。
生きてるいるい寒鯉の緋は昏れぬ
ガラス切るもう一枚の春の闇
母子像のあたり万の乳房よ藤は
ずぼらな空気ふいに飛びたつ冬の蠅
薔薇色に生きるつづきの息をする
私から骨を抜いても八月来る
ナガサキ全滅の報耳にあり夏野
被爆野に蛇乾びている感情
原爆忌誰も見えないかくれんぼ
名月のひかりの中のわが生死
舛田傜子(ますだ・ようこ)、昭和5年 長崎市生まれ。
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