第一句集『教師の子』に続く依田善朗第二句集『転蓬(てんぽう)』(角川書店)、帯文は鍵和田秞子、それには、
自然詠も人事句も確りと作者のいのちが通っている秀吟である。地道に一歩一歩句境を広げ、深めてゆく作者のこれは一到達点である。大きな稔りの季を迎えた。
とあり、さすがに弟子の来し方行く末を見守っている風情が滲んでいる。集名の『転蓬』の由来については曹植の詩「吁嗟篇」に拠るとある。五言古詩の冒頭、「吁嗟転蓬 居世何独然」(ああ、転がりゆく蓬よ、なぜ世の中にこうしてお前は独りでいるのだ」(「あとがき」には、全体の詩言、訳が付されているが略する)というものかららしい。また、作句について志してきたことは以下のように、
風景に作者の心が宿るところに詩は生れる。自然と人生の交差するところに俳句の命がある。自然を通してどれだけ自分の心が反映されているか甚だ心許ないが、対象物と自己の接点を求めて作句してきた。
と、したためられ、よどみがない。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておきたい。
蛇苺つまむやいつも少数派 善朗
大雪渓人は次々雲に消え
右の鎌動くことなき枯蟷螂
音の奥より白々と夜の滝
父なくて母のかたはら小鳥来る
石塀にひしと蛹よ阪神忌
頬骨のくつと突き出る歩荷(ぼつか)
かな
春しぐれ虹を生むには至らざる
麦笛を吹く生徒らに選挙権
雨脚の虚空にねぢれ秋出水
線引けば線に表情竹の春
開戦の日よ空耳のいくたびか
徴兵の久しくなき世雪を搔く
依田善朗(よだ・ぜんろう) 昭和32年、東京生まれ。
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