2018年10月4日木曜日
永瀬十悟「絶滅の凍星となり漂ふか」(『三日月湖』)・・・
永瀬十悟第二句集『三日月湖』(コールサック社)、序句は、
秋蝶の浮力絶壁の限り 森川光郎
解説の鈴木光影は、第四章「ふくしまの四季」の中の「ふくしまの子として生まれ入園す」などの8句を抽出したのちに、
永瀬氏が表記を平仮名の「ふくしま」とするのには、氏特有の素朴な眼差しと、子どもに語りかけるように世界に接していく柔和な姿勢が見えるようである。原発事故以来、被曝地域との意味合いを込め、片仮名の「フクシマ」という表記がされることがある。平仮名の「ふくしま」は、子ども的感性を大切にし、郷土を慈しみ育てていこうとする思想の現れではないだろうか。角川俳句賞作題も「ふくしま」であることから、永瀬氏が培ってきた長年変わらぬ思想であることが分かる。
と述べている。もっともなことである。集名『三日月湖』の由来は、著者「あとがき」に、
句集名は、「鴨引くや十万年は三日月湖」からとりました。私は学生時代に環境調査のため原発周辺に通っていましたが、その思い出の地が今は立入禁止区域となってしまいました。放射性物質が無害になるには十万年の時を要すると言われています。想像も及ばない時間です。ひとたび事故が起これば放射線の影響は取り返しのつかないものとなります。しかし、原発事故直後の脱原発の大きな流れはいつの間にか変わってしまいました。被災地は置き去りにされ、取り残された三日月湖のようです。
と記されている。三日月湖の句は他にもある。
月光やあをあをとある三日月湖 十悟
綾取の橋を三日月湖へ架けむ
また、各章の扉裏には、それぞれ献辞が掲げられてある。例えば、第一章「ひもろぎ村」では、
原発事故により避難を余儀なくされた地は、神聖な場所のように静まり返っていた。
とあり、中の一つの句は、
村ひとつひもろぎとなり黙(もだ)の春
である。また、本句集はこれから来るであろうさらなる倖せにもつつまれていよう。挿絵が、東日本大震災の年に生まれ、今春小学生となった孫の「ながせゆうり」とあるのもそうだ。
ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておこう。
村はいま虹の輪の中誰も居ず
六千人働く廃炉盆の月
これほどの雁この湖(うみ)の何が好き
地震(なゐ)ひそむ地に新しき巣箱かな
ひひなみなをさながほにていのちなが
ひばり雲雀なんだか楽しくなつてくる
かき氷この世のものでない色を
喜雨の中みな濡れて行く我もまた
永瀬十悟(ながせ・とおご) 1953年、福島県須賀川市生まれ。
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