日下野由季第二句集『馥郁』(ふらんす堂)、愛情深い栞文は大木あまり。その結びには、
実りある三十代の句集『馥郁』のどのページをめくっても、透明な句に出会うことができる。作者の俳句への情熱が伝わってくる。
祝
伝言のごと心音や水澄めり あまり
とある。そういえば、かつて、愚息の卒業した小金井市立第一中学校の校歌の作詞は、大木あまりの父にして詩人の大木敦夫だった。
不二(ふじ)
が嶺(ね)
の み雪(ゆき)
は浄(きよ)
し
きよしや わが学(まな)
び舎(や)
誠(まこと)
をぞ つらぬくものに
あこがれはあり
智恵(ちえ)
をくみ 研(きわ)
めあひ
青空(あおぞら)
のかがよひに こたへばや
と、なかなか格調高いものだった。話を元にもどすと、句集名に因む句は、
馥郁と春の鷗となりにけり 由季
である。同じ鷗、と言っても巻尾前の、
冬鷗ゆくいまの空いまの青
の句の方が、どちらかと言えば、愚生の好みである。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておきたい。
活けられて風を通しぬ草の花
まだ色をみせざる海や春ショール
香水のもう身に添はぬ香なりけり
大空を来て水鳥となりにけり
父の日の父に実の成る木を託す
一秒で来たる返信秋澄めり
悼・澤田和弥
蟻走る享年三十四と墓
遊ぶ子の中に泣く子や実南天
かの人と見たる桜を見てゐたり
日下野由季(ひがの・ゆき) 1977年、東京都生まれ。
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