2019年1月9日水曜日
有住洋子「寒中の碑シヅカニワラッテヰル」(『景色』)・・・
有住洋子第二句集『景色』(ふらんす堂)、最近では珍しいと思えるのは、さしたる帯文もなく(いや、短い帯文が・・)、「景色は、私にいろいろなものを見せてくれた。」とのみ。
それは、これも短い「あとがき」の冒頭に記されている言葉であった。シンプルと言えばシンプルだが、句集の装幀も良い。8章の各章題に選ばれている言葉は、その中の一句の中から選ばれているのは、普通のようだが、改めて読んでみると最初の章「水平」だけは、その言葉をそのまま詠み込んだ句がない。あえて付会すれば、巻頭の句、
水鳥のいつもとほくにゐるかたち
の「水」と、巻尾の句、
冬の月たひらな道のつづきけり
の「たひら」=「平」で、合わせると「水平」である、ということだろうか。いや、愚生の勝手ないいぶんであるが、もしかしたら、最初の章の句の末尾の句、
窓枠の高さが揃ふ帰雁かな
の句が、「水鳥」と「高さが揃ふ」=「水平」のアナロジーなのかも知れない。
因みに他の各章の扉の題と一句を示しておくと、
「死者」 椅子を足す十一月の死者たちへ
「真下」 秋燈の真下を拭いてをられたる
「回廊」 花冷の戸が回廊に通じをり
「錆」 錆色の水の出てくる日雷
「端」 鳥曇厨房の端見えてゐる
「貌」 十月の霊長類のほそき貌
「一面」 一面の屋台の裏が枯れてをり
である。ともあれ、この他の愚生好みの句をいくつか以下に挙げておきたい。
短日の灰の中より棺釘 洋子
白昼といひ白日といひ日からかさ
噴水によりそふ影のなかりけり
雁の竿沈香充ちてきたりけり
一艘の沖に横向く余寒かな
虚子の忌のみな大空の下にゐる
秋寂ぶと雁の形の釘隠
有住洋子(ありずみ・ようこ) 1948年、東京生まれ。
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