2019年4月2日火曜日

橋本榮治「セルを来て父の世戦後続きをり」(『自註現代俳句シリーズ・橋本榮治集』)・・



 『自註現代俳句シリーズ・橋本榮治集』(俳人協会)、著者自選300句に、自註を付したシリーズで、句の作られた背景や著者自身の志向を窺うには、手ごろである。ただ、本集については、平成12年作「マッチなき暮(くら)しいつより秋時雨(あきしぐれ)」以後の近作が無いのが残念で、最近の作までを収録してもらえれば、愚生としては実に嬉しいことだったのだが、無いものねだりで仕方ない。涅槃図の次の2句を並べて読むと、著者の本質的な有り様、想いが伺える(句に、便宜のために付されたルビは省略した)。

  涅槃図や身を皺にして象泣ける    平成三年作

    若手勉強会では涅槃図を見なかったが、掲句は奈良の成果と言ってよい。
    現実味の乏しい季語・涅槃図に具象性と実感をどのように盛るかを考えた。

  涅槃図の余白の我を思ふべし     平成六年作

   涅槃図には嘆き悲しむ万物の姿が描かれているが、そこに鑑賞者の姿はない。
   しかし、鑑賞者の心は図の中に描かれている悲しみに同化してゆく。

 著者「あとがき」には、

 私の句の中には体験と作句の間が十年近く離れているものがある一方、句会も何も通さず、湯気の立っているような句をいきなり雑誌に発表したものもある。自註を書くにあたってはその整合性に時間をかけてしまった。

 とある。ともあれ、集中より、句のみになるが、以下にいくつか挙げておきたい。 

   わが影と呼び合ふ影もなき枯野            平成元年作
   結跏趺坐生死(しょうじ)の外の涼しさか       平成三年作
   考へる水鳥に杭ひとつづつ              平成四年作
   癒えよとの言葉ひとつに麥青む            平成五年作
   音(おと)にして楽(がく)なる詩(し)やレノンの忌 平成七年作
   橋本榮治死すと春眠覚めにけり            平成八年作
   灯の及ぶ限り降る雪埋むる雪               〃
   奈良町のはづれまくなぎ好(ごの)みかな       平成九年作
   たんせたんせ雪より白きあまえつこ          平成九年作
   大口真神(おおくちまかみ)滅びてよりの地の乾き  平成一〇年作
   
橋本榮治(はしもと・えいじ) 1947年、横浜生まれ。




★閑話休題・・芦田麻衣子「骨の墨滴る花の南無阿弥陀佛」(『HAWAII 2017-2018』/日本ハワイ友好祈念奉納 虹の芸術祭 作品図録)・・・


 一冊の図録に二様のそれぞれの意義、「ハワイと日系人の歴史ー文化、そして人生観について」や、「浅草 江戸情緒を受け継ぐ歴史と伝統に街」などが記されており、藍染には額と軸に短歌・俳句の作品が掲載され、ハワイ祈念奉納には、着物パネル・石碑に、短歌・俳句・詩・川柳・書道などの作品が掲載れている(英訳付き)。展覧会は、2017年12月22日~24日まで浅草公会堂で開催された、という。美しい写真集だが、正直なところ、愚生には贅沢な試みだなぁなどと、いささかのやっかみが起きて来る。ともあれ、芦田麻衣子の作のみだが、以下に紹介しておこう。芦田麻衣子は、以前に、愚生が現代俳句協会新人賞の選考委員をしていたときに応募され(もちろん、作者無記名による選考だった)、最終段階まで候補作として残り、鈴木明が推挙していたような記憶があるが、それも今では曖昧な記憶だ。



麻衣子「鳴鶴や雪花ひびく立ちすがた」↑
「初霞安心の猿かぶきけり
『浅草ー藍染 心の言葉巡り 作品図録』(青藍社)


芦田麻衣子「秋風の抱いてくれたあかん坊」↑
「骨の墨滴る花の南無阿弥陀佛」
『HAWAII 日本ハワイ友好祈念奉納 虹の芸術祭 作品図録』




          撮影・葛城綾呂 ツルニチソウ↑

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