2019年5月13日月曜日
栗田やすし「振り向けば一筋の道寒明忌」(『半寿』)・・
栗田やすし第5句集『半寿』(角川書店)、集名については、著者「あとがき」に、
句集名の「半寿」は耳慣れない語であるが、「半」の字を分解すると「八十一」になる。昨年六月十三日に八十一歳になったことから、自祝の意を込めてこの題名を選んだ。
とある。本集は、第5句集にあたり、平成20年から平成30年に至る11年間の作品340句、他に巻末には、平成10年より平成30年に至る21年間の沖縄詠(四季別)が収載されている。とはいえ集中には、半寿という重ねられた年齢の分だけ、追悼句が多い。さらの師であった沢木欣一、細見綾子、さらに研究対象であった河東碧梧桐を偲ぶ忌日を多く詠んでいる。いずれ鎮魂に満ちた句集である。無作為になるが、まず悼句を以下にあげておこう。
沢木欣一師を偲び
ウィスキーは湯割りが良しと春炬燵 やすし
竹川君を悼み
教へ子の訃音はらりと冬椿
皆川盤水氏を悼み
ただならぬ雲に早さよ秋の山
滝沢伊代次氏をいたみ
「いよーじ」と大音声や鳥渡る
義母
白菊や母は天寿を全うし
大橋幹教氏を悼み
佳き人の死は忽然と冬椿
横森今日子さんを悼み
山と句を友とし逝けり桐の花
武山愛子さんを悼み
友逝きし日や山茶花の散りやまず
加藤憲曠氏を悼み
雪の夜のせんばい汁の熱かりし
鈴木みや子氏を偲び
単衣着て紫煙艶めく人たりし
悼中村修一郎氏
昼ちちろ卒寿の友の柩閉づ
石川紀子さんを悼み
花ゆうな海を隔てて訃音聞く
花ゆうな=オオハナボウのこと。一日で黄色から次第に橙色に変わる
グログタイトルにした句「振り向けば一筋の道寒明忌」は碧梧桐忌。他に忌日句は、
流れゆくもの美しき綾子の忌
反故を焚く煙りひと筋綾子の忌
泰然と色変へぬ松欣一忌
白子
沖はるか白帆かがやく誓子の忌
などがある。ともあれ、他の愚生好みの句をいくつか以下に挙げておきたい。
点字付す望郷句碑や河鹿鳴く
軍服の騎乗の父や敗戦忌
甘蔗(きび)畑に痛恨の碑や旱梅雨
敗戦直後、スパイ容疑で日本軍が島民を虐殺
旧海軍司令部壕
黴臭き幕僚室に自爆痕
司令部壕=大田実少将らの自決した所
花ゆうな錆びて転がる祝女(のろ)の島
赤土(あかんちや)に幾万の霊甘蔗の花
チビチリガマ
闇深き洞窟を墓とし年送る
栗田やすし(くりた・やすし) 昭和12年、旧満州国ハイラル生まれ。
撮影・葛城綾呂 ボケ↑
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