2019年10月17日木曜日
佐藤文子「草の罠ほどきて月を通しけり」(『火炎樹』)・・・
佐藤文子第三句集『火炎樹』(東京四季出版)、集名に因む句は、
火炎樹や愛されぬまま髪を梳く 文子
だろう、とあたりをつけたのだが、著者「あとがき」には、
平成から令和になる五月一日、私はカンボジアのアンコールワットに、そしてベトナムのハノイへ旅をつづけていました。その途中、とある公園でまっ赤な花をつけた「火炎樹」に出会いました。大樹でありながら、人知れず、目立たず佇む木。私はその木に心ひかれました。丁度句集の出版を考えていたところだったので、迷わず句集名を「火炎樹」としました。
とあった。ブログタイトルにした句「草の罠ほどきて月を通しけり」には、佐藤文子が穴井太の弟子であったことを思って、すぐさま、穴井太「ゆうやけこやけだれもかからぬ草の罠」への返句かもしれないと思ったりした。もう何十年も前のことになるが、佐藤文子は現代俳句協会青年部創立時の信州地方における重要な役を担っていた。随分とお世話になった。
ところで、本集の装幀は宇野亜喜良。凝った作りである。カバーをとると、表紙には、カバーとは別のイラストが描かれている(上掲写真)。また本扉には珍しい箔押しの文字・罫・イラストである。苦言を一つ。許されよ。「湯冷めして骨の髄まで棒になり」(148ページ)と「湯ざめして身体の芯まで棒になり」(180ページ)は同曲の句と思われる。「あとがき」に、二千句からの選とあったので、もったいない。別の一句が欲しかった、というのが愚生の欲張った願いである。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。
楤の芽や棘のあるのも誇りなり
今日は毒忘れて来たり熊ん蜂
空っぽの涙袋へ春の水
始めから出口の見ゆる花トンネル
金魚にはなれぬ銀魚や大都会
洋梨や摩耗劣化の平和論
ファックスを出てくる百万枚の枯葉
冬初め鬼の出て来ぬかくれんぼ
雪女後ろ姿は赤き影
天辺に陽を片寄せて細雪
白鳥の瞳の濡れて飛び立てり
火遊びに飽きて焚火を踏み躙る
佐藤文子(さとう・ふみこ) 昭和20年、三重県生まれ。
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