大野泰雄句集『むつつり』(夜窓社)、集名に因む句は、
むつつりの漢ふたりの星月夜 泰雄
だろう。帯の惹句は中原道夫、それには、
(前略
)彼のこれまでの造型作品は一般の人には不可解、無気味、なのに飄軽と混沌とした世界を展開する。(中略)
俳句にどんな地平を求めてやって来たのか詳しく聞いたことはないが、ここでも読者を誑かすという精神は顕在である。それは彼の抱える宿罪への懊悩と祈りの裏返しなのではと、私は見る。何も教えないのに勝手に上手くなりやがった。それがこの句集だ。
とある。また、著者「あとがき」には、
(前略)
わたしは絵を描いたり、陶で人形を作ったりもするが、その時も最初から表現の意図を持って始めるのではなく、作っているうちになんとなく出来てしまったという感じで終わることが多い。(中略)
無意識と言えばそうなのだが、そればかりでも無いような気がしている。身体が喜ぶように、美味しいものを食するように、快楽に従っている。それは「内臓感覚」と呼べるようなものなのだ。
因みに、表紙も含めて、装画は著者自身の作である。ともあれ、集中よりいくつかの句を挙げておこう。
人日やまことたはけた大思ひ
膕(ひかがみ)
に取り囲まれし焚火かな
谷の水よりも冷たき岩魚かな
料峭のなにも留めざる錆画鋲
春昼の猿(ましら)が背負ふ檻の影
風船の追はれて影を失へり
ストリップ小屋で見てゐる裸かな
梨の鼻ぶらりアルチンボルド「秋」
大野泰雄(おおの・やすお)1950年大阪生まれ。
撮影・鈴木純一 雪催い ↑
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