2020年1月31日金曜日
能城檀「印刷工枯野に風を増刷す」(『カフェにて』)・・
能城檀第一句集『カフェにて』、懇切な序は仲寒蟬「眠る狼、眠らぬ鷹」、その中に、
さて、檀さんの俳句の表現上の特徴として予てより「句跨り」が多いと感じていた。心に中でひそかに「句跨りの檀」と呼んでいたほどである。句集としてまとまった数の彼女の俳句を読み進めると独特のリズム感があることに気付く。数ページ読めば敏感な読者は納得してくださることだろう。そこで句集中の句跨りの句がどれくらいあるのか調べてみた。ついでに字余り、字足らずの句数も数えてみた。
といい、一覧表にして、句集中の章に占めるパーセントまで記してある。
(中略)句跨りは下五の字余りと連動するかのように年を経るにつれて増加してきている。(中略)
ガーベラあるいは大人になりたくない少女 平10
飽かず追ふ金魚ゆつくり大人になれ 平16
ダリア死ぬまでを踊り続けてゐるダリア 平29
白い嘘黒い嘘ブロッコリー迷宮 平30
こうして例句を挙げてみると、中七から下五への句跨りが定型を乱しつつなだれ込んできたところを、下五が受け止めきれずに字余りの状態で辛うじて着地、といった感じである。この危うい均衡が能城檀の独特のリズムの正体であったと判明した。
と分析している。表紙カバーの挿画は、金子國義。ともあれ、以下に、愚生好みになるが、いくつかの句を挙げておこう。
今朝炊きし飯に芯あり敗戦日 檀
万緑に負けないための赤い靴
消化試合のビールいよいよ温くなる
皺ひとつ無き冬麗を訝しむ
ゴム長にちよつと蹴られし河岸の蛸
ありがたくちちははゐます冷奴
かかとから溺れ始める夏野原
春暁の右手生きる手働く手
故 大牧広先生へ
太眉を下げて師の笑み春の笑み
能城檀(のうじょう・まゆみ)1963年、東京都生まれ。
撮影・鈴木純一 いつもの道も↑
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