2020年8月22日土曜日
篠崎央子「青胡桃決起せし日は遥かなる」(『火の貌』)・・
篠崎央子第一句集『火の貌』(ふらんす堂)、懇切な跋は角谷昌子、その冒頭近くに、
央子さんは茨城県の「小さな村」で生まれ育ったと言う。大学時代に『万葉集』を専攻したのは、親しんだ共同体意識がその底にあるからではないか。天磐戸の女神と村落で神々の饗宴のために舞った娘のイメージが、なんとなく結びつく。舞ひめのような雰囲気の央子さんは、神の言葉である「咒詞」への特別な思いを幾代も経て血脈に受け継いでいるのではなかろうか。
と記している。また、少し長めの著者「あとがき」には、集名について記された部分がある。
私にとっては、第一句集となる本書のタイトルは、
火の貌のにはとりの鳴く淑気かな
に拠った。朝という刻を告げる鶏は、火のような形相を持つ。鍵和田秞子師もまた、火のような情熱を持ち、私達の俳句を朝日へと導いてくれている。師の燃え上がる俳句精神に接した弟子の一人としてこれからも邁進してゆきたい。
鶏鳴の句は、集中にもう一句ある。
菜の花の黄は鶏鳴を狂はする
その篠崎央子の師鍵和田秞子は、本書校了間際の6月11日に急逝された、とも記されている。かつて大磯の鴫立庵(この時は、高柳重信の「俳句研究」には、よく書かされた、とおっしゃっていた)や成蹊大学の草田男句碑序幕の折にお会いしたたことなどが思い起される。ご冥福をお祈りする。ともあれ、愚生の好みに偏するが、本集よりいくつかの句を以下に挙げておきたい。
パンの黴剥ぎ一行の詩を練りぬ 央子
狐火の目撃者みな老いにけり
ヒステリーは母譲りなり木瓜の花
蝶遊ぶ壊れつづけるこの国に
みんみん蟬スサノヲはまだ母を恋ひ
夏至の夜の半熟の闇吸ひ眠る
空を舞ふ鳥にも序列今朝の春
残雪や鱗を持たぬ身の渇き
立ち上がる雪割一華芙美子の地
ほたるぶくろ無口な車椅子濡らす
血の通ふまで烏瓜持ち歩く
定員のなきこの星の室の花
篠崎央子(しのざき・ひさこ) 1975年、茨城県生まれ。
撮影・鈴木純一「九日の蜩送り岸辺まで」↑
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