田村葉第一句集『風の素描』(やまびこ出版)、序文は河村正浩。その中で、
獏を連れすすきかるかや風の中
攫われてみたき一瞬青嵐
どの窓も秋の風来てお辞儀する
このように日々の哀感が風詠されている。つまり「風の素描」とは「日々の哀感の風詠」と言える。
と述べ、また、
鬼灯鳴らし鳴らし過去へと下りてゆく (中略)
このように『風の素描』女性特有の心理の綾や内面の起伏が薄い。故に耽美さも艶冶もない。ナルシシズムを否定している。むしろ、心象と現実の照応によって俳句を詠みながらひたすらに内面を昂めようとしているのである。
とも述べている。略歴に、生まれは山口県(愚生は山口市)とあったので、愚生と同じ県だということで、愚生は18歳で出奔して、帰郷かなわず、郷土ナショナリズムに侵されているらしく、今では、いきなり親しみを覚える年齢になってしまった。集名に因む句は、
秋風の裏街道をゆく素描 葉
であろう。ともあれ、愚生好みの句をいくつか以下に挙げておきたい。
とんぼうと後先になる爆心地
落椿風に指紋のなかりけり
抽斗の二段三段麦の秋
木は石を石は木を打つ秋の風
鳥帰る鳥に小さき忘れ物
君が代の先にいちめん鱗雲
花薄遠回りする柩かな
凩に紛れぬように紅をさす
シャガールの馬と目の合う蝶の昼
秋風は鳥のかたちに滑り込む
人間のひと日忘れて風の蝶
田村 葉(たむら・よう) 1945年、山口県生れ。
芽夢野うのき「一輪をあなたの胸に十字草」↑
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