名取里美第4句集『森の螢』(角川書店)、帯の背には「十年ぶりの新句集」とある。
著者「あとがき」には、
(前略)ここにいるわたしは思う。
「人も禽獣も草木も同じ宇宙の現れの一つ」という高浜虚子のことばを。
わたしたちが、コロナ禍に右往左往する間も、森の営みは変わらず、厳かにつづいていることを。
森羅万象の季語を貴ぶ俳句の力を確信する。
これからもわたしは句帖をもって森へ向かう。(以下略)
としるされている。集名に因む句は、
われ立てば森の螢のふえゆくも 里美
寄つてくる森の螢や車椅子
であろう。ともかく、螢にまつわる句を数えれば切りもなく多い。名取里美にとっては、螢とは同体の何かなのかもしれない。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を以下に挙げておきたい。
地震熄まぬたんぽぽに散る硝子片
はじまりもをはりも梅雨の海の音
月の出やわれらヒバクシャ米を研ぎ
月光や立てぬ歩けぬ哀しまぬ
水俣病遺影三百青葉闇
かの星も草の蛍もうすみどり
闇と歩く光と歩く螢森
冬紅葉水底になほ真くれなゐ
大旦燦と打ちあふ川と海
花吹雪すべてを捨ててみな踊れ
香港の少女のゆくへ冬銀河
海上天心寒月光柱
名取里美(なとり・さとみ) 1961年、伊勢市生まれ。
撮影・鈴木純一「冬の野いちご摘むのは惜しい
朽ちてゆくとはなお惜しい」↑
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