井上花風第一句集『日々是好日』(文學の森)、懇切な序は五島暎巳、その冒頭近くに、
(前略)『日々是好日』には、花風さんの教員時代や家族愛や定年後の作品が収められている。骨格のしっかりした句柄で、ユーモアも効いている。読みすすむとウエットな心象も彷彿してくる。(中略)
花風さんは体力、気力にあふれ、気丈な明るい先生だったようだ。趣味はスキーと登山。声は大きい。定年退職してからは、爪にアートなマニキュアをして楽しんでおられる。大柄で元気だった句柄は、近年お母堂様を亡くされ、細やかな悲喜の句に深みをみせている。
川床に蟬の声沸く立石寺
荒紫蘇を耕し汗す元教師
熱の口中青空につがい蝶 (以下略)
と、記されている。そして、帯の句と惹句は、
雁帰月空ひろびろと母の墓
花風さんは両手を拡げた欅のような俳人である。
である。また、著者「あとがき」の中には、
「車座」では毎年、俳句朗読会が行われる。そのために複式呼吸の訓練もある。恒例の、芭蕉「奥の細道」の暗唱は厳しくも楽しく、声が磨かれる。また、先生が同人の一年一句秀をピアノで弾き語るスペシャルライブは「凄い」の一言、感涙である。
音楽家でもある師は、日本をはじめ世界の各地において、ピアノで弾き語る「俳句ライブ」の公演を四十年間続けてこられた。
とある。集中、句集名に因む句は、
日々是好日耳裏白き一農婦 花風
であろう。ともあれ、以下に愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
師・五島暎巳制作の齋藤愼爾の句碑〈梟や闇のはじめは白に似て〉
を訪ねて山形県酒田市飛島へ。その夜の句会で特選を得る。
飛島や句碑の梟鳴き初む
母子手帳おぼろ月夜に見失ふ
凌霄花神話の女の髪絡む
泰山木白濁もあり晴天に
寒夕焼ボールは空に穴を開け
猪子槌連れて帰るのときどきは
紙飛行機タンポポに触れてとまる
陽水聴く芹茹でる窓春の雪
虎落笛父声荒く帰宅せり
はなびらが散り終るまでは紫木蓮
井上花風(いのうえ・かふう) 1953年、静岡県生まれ。
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