杉山よし江第一句集『房州枇杷』(朔出版)、序は今井聖。その中に、
(前略) 霧の夜の屋根に忙しく動くもの
蟬殻の見つかるやうに幹にあり
屋根に忙しく動くものは何だろう。屋根の下に居る作者が感じている目に見えない存在かもしれない。蟬殻はどうして〈見つかるやうに〉幹にしがみついているのだろう。僕ら人間も含めて存在のはかなさと忘れられてしまうことへの怖れも感じさせる作品である。
隠れたき日や花枇杷の毛むくぢやら
千葉県安房郡鋸南町に在ったわが母校・保田
小学校は二〇一四年に廃校。現在は、道の駅
「保田小学校」として名のみ残っている。
房州枇杷溢れ母校は道の駅
枇杷を買ふ「ビハ」と生地の訛にて
句集題になった句を含むこれら三句はよし江さんの故郷千葉の名産「枇杷」の句。どの句も明るくて温かい。
と記されている。そしてまた、著者「あとがき」には、
俳句を作り始めてから三十余年が過ぎた。長かったようであっという間のようでもある。
友人との泊りがけの吟行に運転を買って出るなど、句作を常に支えてくれた夫の三回忌を機に、句集を編もうと思いたった。振り返ると、加藤楸邨先生の「寒雷」に投句をしたのが始まりだった。爾来、俳句の手ほどきを賜った「槌」の小檜山繁子先生、「ぽお」の大坪重治先生、「陸」の中村和弘先生、そして、ナマの現実を独自の視点でと説かれる「街」の今井聖主宰のもとで学んで来られた幸せをしみじみと噛みしめている。
とも記されている。ともあれ、集中より、以下に幾つかの句を挙げておこう。
トンネル菜の花トンネル菜の花お母さん よし江
紅葉や声はゆつくり衰ふる
花曇はらはらされてゐたりけり
紙風船四人合計二百歳
夏来たりけり舟偏の文字いくつ
落蟬へ空蟬吹かれ来りけり
貼り交ぜ屏風焦げ跡のありにけり
山口の土竜塚みな霜柱
配送車の観音開き春立てり
辛夷の芽千鳥ヶ淵に日の跳ねて
杉山よし江(すぎやま・よしえ) 1943年、千葉県生まれ。
芽夢野うのき「パンパスグラス輪郭なぜてはパスして帰る」↑
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