酒井弘司第9句集『地気』(ふらんす堂)、平成26年から令和2年までの7年間、371句を収載し、70歳代の後半から80歳代初めの作品だという。「あとがき」の中に、
句集名の「地気」は、辞書をひもとくと、「動植物をはぐくむ大地の精気」とある。
北丹沢の鄙びた谷戸に長らく棲んで、見えないが天地を充たすもの、その精気の働きに惹かれてきた。
その谷戸を、くまなく歩き、ときに畑を耕して俳句にしてきた。今は、この七年間の軌跡をよしよしたい。
とあった。ますます、自在の境地というべきか。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を以下に挙げておきたい。
天上のシリウス帰途の見えぬ旅 弘司
立夏・小満・芒種天地のはじけくる
小鳥くる戦火の話などもって
この星に生まれいのちのあたたかし
青山河声を挙げねばわれ在らず
太陽系の外から届く水の音
虫の音を踏まないように闇の道
手で掬う真水のひかり白露くる
飛ぶ電波見えず勤労感謝の日
三月十日過ぎ十一日光の中
誕生日
長崎忌わが生まれしは朝のこと
カンナ燃ゆまっすぐに立てわが叛旗
吊革の誰もが揺られ開戦日
天命という言葉ふと二月尽く
どくだみ白し青春の旗遠く遠く
戦後遠しどくだみの線路跨ぐとき
鳥になれず少年歩く夏の朝
冬銀河死は遠くとも近くとも
酒井弘司(さかい・こうじ) 昭和13年、長野県に生まれる。
芽夢野うのき「さざんかさざんか日輪がさめざめ涙した」↑
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