救仁郷由美子「安井浩司『自選句抄 友よ』の句を読む」(12)
天類や海に帰れば月日貝 浩司
「天類や」のこの句のフォルムに俳句技術の高さを誰もが認めるのではないか。
安井のあらゆるものへの探求心のなせる技である。
月や日(太陽)を天類とし、海の生物、月日貝の文字の組み合わせを「帰れば」のことばで分解し天類とする。
十二センチメートル程の月日貝は、小さな両耳をもち、右殻の淡黄色を月、左殻の濃赤色を太陽になぞらえて、この名がある。先人のなぞらえ付けた名、月日貝を「帰れば」のことばで分解し月日と貝にしたのだが、再び、月日が「海に帰れば」月日貝となる。この循環は神話世界の循環であるといえよう。そうして、この万物流転の語りを、読者が神話世界へ運ぶことで、掲句は神話の語り出しの一句となる。
廻りそむ原動天や山菫 浩司
中句の「原動天」をイタリアの古典、ダンテ「神曲」、天国篇の第九天「原動天
以外に考えられるだろうか。
万物を動かす「原動天」は、第10の至高天の下にあり。第8天以下の動きは、「原動天」によって決定されるという。
その「原動天」と「山菫」は同時であると掲句は言っているように思える。
「神曲」の詩型は三行一連で、全体では、一万四二三三行、韻文による長編叙事詩であるが、俳句の一句を詩の一行と考えれは、安井は行数においては、ダンテの『新曲』を越えている。
山路来て何やらゆかしすみれ草 芭蕉
追記
ここから先は、日を改めて掲載させて下さい。ダンテと安井浩司はなかなか簡単には書き出せず、自選句抄の順を変えるわけにもいかず、よろしくお願い致します。
撮影・鈴木純一「大吉や隣に来る鳥の声」↑
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