山本容子『山猫画句(がっく)帖』(文化出版局)、跋に小林恭二「旅すること、食べること、そしてエロティシズムへ/山本容子の画と句」、その中に、
このたび山本容子(愚生注:俳号は山猫)さんが、読売新聞に十年にわたって連載された銅版画並びにやはり十年にわたって「耳の会」で書き留められた俳句を合載して「山猫画句帖」が上梓されることになりました。(中略)
ことの始まりは十年前、わたしがいきなり句会をやりたいと言いだしたことにあります。きっかけが何だったかもはや忘れましたが、老後のてなぐさみを手に入れたいくらいの軽い気分だったかもしれません。普段近しくしていただいている遊び仲間に声をかけたところ、幸いみなさん乗ってくださり、その筆頭が山猫さんだったわけです。
以後十年にわたりほぼ毎月途切れることなく句会は行われました。「耳の会」という句会名は初回の題詠の題に「耳」が入っていたことからつきました。(中略)
蕾はや奸婦の予感つつじ花 山猫
「奸婦の予感」こういうのに男心はひかれるんですよね。将来とんでもなく勝気な女性になるのですが、今はまだ清楚な少女なのでしょう。でもときおり光る眼の輝き、なみなみならぬ意思の力が垣間見えている。これに「つつじ花」を配したのもいい。薔薇や牡丹では当たり前すぎてつまりません。満開時のつつじの花勢の強さが、まさにこの句の世界なのです。
本集に収載されている銅版画は40点、左ページに配され、右ページ句が2~4句配されている。「この山猫句帳の本領は、俳句と画業とのコラボにあります。ここがおそらく山本容子さんがもっとも腐心された部分でしょう。(中略)画と句は互いに独立しながら、互いの匂いで互いを引き立てあっています。それはひとことでいってとてもエロティックな関係です」(同前掲出)と記されていた。ともあれ、以下に、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
迷い人迎へついでの花見かな
凍る豚花見へ急ぐ籠のなか
幾度の虚空を造るしやぼん玉
滾る湯を待たせ土筆の袴とる
風のなか風に飼はれし毛虫かな
夏草は獰猛となり歩き神
君想ふ気持ちに百の仕草あり
水紋に酔ひはしないか浮寝鳥
しぐるゝや霙大根蕪蒸し
雪女郎根性魂は赤き手に
山本容子(やまもと・ようこ) 銅版画家。1952年、埼玉県生まれ。
撮影・鈴木純一「ビンボウでヘクソで初心忘れずに」↑
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