2022年11月10日木曜日

山田千里「晩夏光死に行く人の声を聴く」(「連衆」95号)・・

 

 「連衆」(連衆社)95号、「招待作家」コーナーの山田千里は「君は鳥になれ」20句を寄稿している。そのサブタイトルが「追悼・救仁郷由美子」である。救仁郷(くにごう)由美子は、足掛け7年の闘病の歳月を経て、本年8月10日に、本人が望んだたように、自宅で家族に囲まれて帰天した。享年72。由美子の数少ない友人のなかで、千里氏は毎日,最期の日にも絵葉書に言葉を添えて贈って下さっていた(生前にお会いしたのは、LOTUSでの豊口陽子を読む会を含めて二度ほどと聞いている)。その日々の便りさえ、読むことの叶わぬ日があったが、必ず目に入るところに、それを飾るように置いた。また、寄稿された全ての句を追悼として詠んでいただいたことには、感謝するばかりで、言葉が無い。その中のいくつかを紹介させていただきたい。


  天空へ飛び立つ君よ青になれ       千里

  夏の終り癒しのピアノ届けたい

  安井浩司よ死者生者となりて盆踊り

  池上線四月生れの私たち

  夕焼けの宙に浮かびし白き骨

  去年の秋いのちの期限つげられて

  君は三日月孤独の孤を描く

  ホスピスのXマスツリ―は青かった

  君は鳥になれ春夏秋冬鳥であれ  


その他、本誌本号より、愚生好みに偏するが、一人一句を挙げておきたい。


  炎昼の大きすぎたる穴である         上野一子

  糸瓜ゆれまちがって飼うかめれおん      松井康子

  ホオズキとけてしどろもどろになる私     黒川智子

  パクられよ紋白蝶と化す裸体         加藤知子

  うそ寒のことばが頭に引っ掛かる       瀬戸正洋 

  剥製もときに羽ばたく良夜かな        森さかえ

  人の世へモザイク烏瓜の花         羽村美和子

  目の前のあなたになれば揺れている     とくぐいち

  その金魚夕日と名付け泳がそう        夏木 久

  うさぎうさぎ踊っていればいいうさぎ     柴田美都

  葛かずら点線ばかりのウクライナ       鍬塚聰子

  人ごみを避けて残暑にからまれる       三船煕子

  流れ星あれは誰かの石礫          早坂かおり

  皆んなまで聞かず信号赤となり        江崎豊子

  草の花近道からは遠くなり          高木秋尾

  ほんたうの火となるまでを狐花        小倉班女

  川を汲む父の欲しがる冷たき水        花森こま

  あなたからZの距離にある林檎       小柳かつじ

  水切りの小石を集め涼新た           千原艸炎

  側溝にカワウソがいるネオン街       しいばるみ

  玉砕の散るもかなわず明日は追っかけ     墨海 游

  朝顔のお昼の顔と夜の顔           普川 洋

   無役無視の無月の柱お出ましぬ        柳井玲子

  秋風を少し予約しようと暦見る        増渕幹男

  重陽や神殿の間に風ぬける          古市輝夫

  馬追やどちらが先に老いの恋         下村直行

  電線も裸婦も横たえ夏の空          萩 瑞恵

  妻よ生きろと咳する我も38°C        川村蘭太 

  首折れの起重機(クレーン)へゆらり大揚羽  谷口慎也

  雲母剥がすみたい 忘れていくみたい    笹田かなえ

  火の用心すでに頭の中が火事        わいちろう

  一旦平和 一旦戦争 そして全滅      神田カナン

  うりずん(潤い初め)に火の雨が降る涙が降る 情野千里

  とりあえず犬を呼んだら犬が来る       楢崎進弘



     撮影・中西ひろ美「店に晩秋の忘れものがあるって」↑

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