「連衆」(連衆社)95号、「招待作家」コーナーの山田千里は「君は鳥になれ」20句を寄稿している。そのサブタイトルが「追悼・救仁郷由美子」である。救仁郷(くにごう)由美子は、足掛け7年の闘病の歳月を経て、本年8月10日に、本人が望んだたように、自宅で家族に囲まれて帰天した。享年72。由美子の数少ない友人のなかで、千里氏は毎日,最期の日にも絵葉書に言葉を添えて贈って下さっていた(生前にお会いしたのは、LOTUSでの豊口陽子を読む会を含めて二度ほどと聞いている)。その日々の便りさえ、読むことの叶わぬ日があったが、必ず目に入るところに、それを飾るように置いた。また、寄稿された全ての句を追悼として詠んでいただいたことには、感謝するばかりで、言葉が無い。その中のいくつかを紹介させていただきたい。
天空へ飛び立つ君よ青になれ 千里
夏の終り癒しのピアノ届けたい
安井浩司よ死者生者となりて盆踊り
池上線四月生れの私たち
夕焼けの宙に浮かびし白き骨
去年の秋いのちの期限つげられて
君は三日月孤独の孤を描く
ホスピスのXマスツリ―は青かった
君は鳥になれ春夏秋冬鳥であれ
その他、本誌本号より、愚生好みに偏するが、一人一句を挙げておきたい。
炎昼の大きすぎたる穴である 上野一子
糸瓜ゆれまちがって飼うかめれおん 松井康子
ホオズキとけてしどろもどろになる私 黒川智子
パクられよ紋白蝶と化す裸体 加藤知子
うそ寒のことばが頭に引っ掛かる 瀬戸正洋
剥製もときに羽ばたく良夜かな 森さかえ
人の世へモザイク烏瓜の花 羽村美和子
目の前のあなたになれば揺れている とくぐいち
その金魚夕日と名付け泳がそう 夏木 久
うさぎうさぎ踊っていればいいうさぎ 柴田美都
葛かずら点線ばかりのウクライナ 鍬塚聰子
人ごみを避けて残暑にからまれる 三船煕子
流れ星あれは誰かの石礫 早坂かおり
皆んなまで聞かず信号赤となり 江崎豊子
草の花近道からは遠くなり 高木秋尾
ほんたうの火となるまでを狐花 小倉班女
川を汲む父の欲しがる冷たき水 花森こま
あなたからZの距離にある林檎 小柳かつじ
水切りの小石を集め涼新た 千原艸炎
側溝にカワウソがいるネオン街 しいばるみ
玉砕の散るもかなわず明日は追っかけ 墨海 游
朝顔のお昼の顔と夜の顔 普川 洋
無役無視の無月の柱お出ましぬ 柳井玲子
秋風を少し予約しようと暦見る 増渕幹男
重陽や神殿の間に風ぬける 古市輝夫
馬追やどちらが先に老いの恋 下村直行
電線も裸婦も横たえ夏の空 萩 瑞恵
妻よ生きろと咳する我も38°C 川村蘭太
首折れの起重機(クレーン)へゆらり大揚羽 谷口慎也
雲母剥がすみたい 忘れていくみたい 笹田かなえ
火の用心すでに頭の中が火事 わいちろう
一旦平和 一旦戦争 そして全滅 神田カナン
うりずん(潤い初め)に火の雨が降る涙が降る 情野千里
とりあえず犬を呼んだら犬が来る 楢崎進弘
撮影・中西ひろ美「店に晩秋の忘れものがあるって」↑
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