「豈」65号(豈の会)、その「あとがき」(筑紫磐井)に、
今回は、第7回攝津幸彦記念賞の発表、特集・北川美美全句集、特集・兜太はこれからどう発展するかの続編で構成した。特に北川美美特集は、評論集『「眞神」考』の刊行に次いで北川美美の全句を伺う作品特集とした。評論集『「眞神」考』の特集は「ウエップ俳句通信」125号で大特集を組んだので「豈」ではあえて行わないこととした。これで北川美美の追悼企画は終えることが出来た。評論集及び全句集特集に当たっては、山田耕司氏並びに母堂の北川尚代様から様々なご協力をいただいたところであり、厚く感謝申し上げる。
とあった。特集「金子兜太はこれからどう発展するカ!!」の論考の執筆者は、董振華「兜太俳句と中国文化」、井口時男「金子兜太論余滴」、小野裕三「兜太の世界戦略」。以下に攝津幸彦記念賞(選考委員評は、夏木久・眞矢ひろみ・筑紫磐井・大井恒行)と、同人の一人一句を挙げておこう。
鉄屑になるまで鉄でいる穀雨 なつはづき(第7回攝津幸彦記念賞・正賞)
咲いたので
しばらく見ないことにする 水城鉄茶(准賞)
石段にセシルセシルと囀りぬ 赤羽根めぐみ(准賞)
いくつもの世界がはがれてはじまる 斎藤秀雄(准賞)
護国寺の甍の秋や仁王立つ 井口時男
とぶ記憶とばぬ記憶や秋蛍 秦 夕美
石を巻く蛇は劫初の花なるも 堀本 吟
廃墟より廃墟へ恵方道つづく 青山茂根
頭の下を獏が通りぬ籠枕 飯田冬眞
どしゃぶりを悦ぶ躰もちにけり 池谷洋美
行ったことなく無き満州の方へ雁 池田澄子
島前やぬりゑでゑがく王土なれ 丑丸敬史
これやこの呑下かなはぬ夏の闇 打田峨者ん
宿泊療養閉ざされて見ず夏の月 大井恒行
寄り道こばみ朝な夕なのパルマ 大橋愛由等
氷屋のさっそく熱くなる鏡 岡村知昭
笑い茸美人キリキリ舞わせけり 加藤知子
グレートリセット着々進む神の留守 鹿又英一
皆流人めく五月雨の繫華街 神谷 波
ひつじ雲冥府がのぞく午睡の書 神山姫余
十二月八日つかまるものがない 川崎果連
銀河系80年を核二発 川名つぎお
階段をだんだん弾むダンロップ 北村虻曵
もうゐないだれかのために鳥籠を 倉阪鬼一郎
爆音が近づいてくる貝の耳 小池正博
フィレンツェの夕映えを売る古本屋 小湊こぎく
天翔けて人も都も灼けにけり 五島高資
不発弾ゆつくり運ぶ神の留守 堺谷真人
短夜の夢に漱石徴兵忌避 坂間恒子
躍らばや
いかで灰句の
灰神楽 酒巻英一郎
音に聞く見えざる声が手をさはる 佐藤りえ
時には母のない子のように自爆せり 清水滋生
加茂茄子のはちきれそうな乳房かな 城貴代美
埋めなくていい余白にまでどくだみ 杉本青三郎
泣くふりも笑つたふりも桜桃忌 関根かな
素麵は無限これでもかと薬味 瀬戸優理子
店中は暗くいつもの種物屋 妹尾 健
ゆく夏の蜥蜴と思う人影を 妹尾健太郎
七夕の畳屋の裏染物屋 仙川桃生
無精卵(ビッグボーイ)日本海的皿の中 高橋修宏
あいの里玉蜀黍(とうもろこし)畑に魔法陣 高橋比呂子
ちよつと憂鬱(カインド・オブ・ブルー)その浪裏を波のりは 高山れおな
ひまわりの芯に少年うずくまる 田中葉月
わたくしの心臓はどこ 春の鳶 筑紫磐井
あの世は恍惚の胡桃になろう 照井三余
十指に虻 連弾に死す羽ばらばら 冨岡和秀
花アロエ地の涯遠き砂漠かな 中島 進
蛇穴を出る親知らず抜きに行く なつはづき
陽は沈む止めを刺さぬまま眺め 夏木 久
円柱に腕生え僕を抱きしめた 萩山栄一
公権ややがてマスクを狩る遊び 橋本 直
しんがりに美貌の兵士日雷 羽村美和子
メローなメロディーカウチポテトの真昼 早瀬恵子
紅生姜あるのとないのとが格差 樋口由紀子
土不踏 誰か故郷を思わざる 藤田踏青
葉桜や「犬ノ散歩モ引受マス」 藤原龍一郎
海の日の定義忘れて今日がそう 渕上信子
冬麗や別の窓より別の空 干場達矢
垂線を登りきったるビルに月 眞矢ひろみ
鍵盤の指から秋へ着地する 森須 蘭
草むしり動員されし滑走路 山﨑十生
義足外し
少女 片足で立つ
渚のあたり 山村 曠
人類のノイズのような初日かな 山本敏倖
朝焼けの空の彼方の凧(カイト)まで わたなべ柊
かじゅまる連理の枝へ枝駄戯(えんだぎ)を 亘余世夫
枝駄戯(えんだぎ)=ぶらんこ
世界中死の予感して四月来る 北川美美
撮影・鈴木純一「ふるさとを訊けばぼんやり蒸かし芋」↑
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