「風」は三号で早くも「七月号が抜けた」(編集後記)。従って奥付によると「風」三号の発行日は昭和12年8月1日。編集・発行者も谷澤芳太郎に変わっている。新同人に高屋窓秋と阿部青蛙を迎え、窓秋は、読者俳句欄の選者を第5号から担当することになり、その募集広告が掲載されている。そして阿部青蛙は「葛飾の冬」46句の力作を発表し、「『俳句朗詠調試作』という傍注を付すべきかも知れない」と後記に記してある。
眺(みさ)け飽かぬ鷺のまにまに氷(ひ)を踏みゆき 阿部青蛙
ともるとき冬ぞらの藍篠の来ず
うすら氷を踏み弾帯の光れりき
三橋敏雄は、「風」三号より同人として参加、「或る遺作展」12句を発表していることは前回にも触れた。今回は「風」四号(昭和12年9月1日発行・編集兼発行者 小西兼尾)に発表された「軍人」12句を留めておこう。
軍人は晩婚にして鳥撃てり (句集『青の中』所収) 三橋敏雄
鳥銃を疎林に向けて暁けはじむ
軍人の日焼けて持ちぬ金時計
汗ばみて軍人は妻とほく連れぬ
裏町Ⅰ
露の路地汝が前額のひたにあり
角時計鳴りわたりたり路地に吾に
路地せまくはざまのそらへ髪伸びたり
裏町Ⅱ
路地の路地ひとかげあらず雷雨来る
わが路地のくろき門標を雷わたる
ひとのこにあつき雷雨はしみとほり
みぢか夜にゆきむかひしは禿の爺
植林にちらと老鶯のまなこあり
「風」四号の編集後記には渡邊保夫と発行者・櫻井武司の出征により「再び発行所が移転した」とある。とはいえ、後記の署名をみると、渡邊白泉、小澤青柚子が実質的に実務を担っていたと思われる。
因みに、同人住所録による人数は以下のように30名。
会津隆吉・阿部青蛙・荒木海城子・稲川榮一・飯島新松子・飯島草炎・江原佐世子・岡崎北巣子・奥澤青野・小澤青柚子・小澤蘭雨・熊木一男・熊倉啓之・小西兼尾・西塔白鴉・櫻井武司・澁谷吐霧・高屋窓秋・高井洒水・中島叢外・中村秀湖・南雲山査子・長谷川友太郎・羽根田左芙男・冬木胖・古川衛士・松澤黒洋・三橋敏雄・渡邊白泉・渡邊保夫。
突然のご連絡失礼いたします。大井さんのこの記事で、私の祖父が「風」の同人だったことを知りました。「風」に掲載されている祖父の作品を読みたいのですが、国会図書館にも所蔵がないようで、途方に暮れています。これは大井さんのご蔵書でしょうか?何か閲覧できる方法をご存じでしたら、ご教示いただけないでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。
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