2016年3月22日火曜日
大牧広「被災地にこの世の花火揚がりけり」(第15回山本健吉賞)・・
「俳句界」(文學の森)4月号に第15回山本健吉賞授賞の記事が掲載されている。推薦の弁は金子兜太。
俳句作品をまとめた句集『正眼』は、いかにもこの人らしい立ち姿を見せて、私たちの前に出現し、悠々と詩歌文学館賞を受賞したし、与謝蕪村賞、俳句四季特別賞も受賞したという。評論も充実し、ともに小手先の利いた、いわば術(わざ)の利いたものではなく、躰で受け止めた真剣且つ生真面目なものであって、選評の言を聞いてもそれが先ず語られていた。
大牧広は小技(こわざ)の利いた創作者でないことは夙に知られているが、その充実の年に受賞を見たことは芯からの悦びとしたい。
「俳句界」4月号には別に「現代俳句の社会性」を詠む特集もあって、それにも大牧広は「社会、政治を詠む」に「田植寒10句」を寄せ、以下のように詠んでいる。
茎立ちやこの世格差のありすぎる 広
報道のすでに萎えゐて田植寒
戦争知らぬ議員ばかりや空襲忌
金子兜太の物言いのように、たしかに直接、実直な表現で、その意味では、石田波郷の句集『惜命』にふれる境涯句に通じるものがあろう。
本特集「現代俳句の社会性」には、他にも小説家の西村賢太などが句を寄せている。
日雇いへ 出るに出られぬ 冬布団 西村賢太
介護さえ 買うが易しの 悲しさよ
大寒を死ぬな死ぬなと夫看とる 木田千女
すさまじや夫骨片となり給ひ
母の胸むかし豊かに冬至風呂 後閑達雄
亀を飼ふ老人ホーム寒に入る
亡き人がいまだ手を振る冬の沖 菅原鬨也
福島に復興の名の冬花火
まだ津波残れる廃墟夏の月 照井 翠
滅亡の文明ほどに土盛らる
今や「俳句界」は、俳句総合誌のなかではもっとも硬派?の雑誌になったような趣である。他があまりにもだらしないというべきか。
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