岸本尚毅句集『雲は友』(ふらんす堂)、「あとがき」は短いので、すべて引用しよう。
還暦を過ぎた。遠からず「高齢者」となる。
「老人」という言葉がある。何となく突き放したような感じがする。そのため、これまではその言葉を避けてきた。
今回の句集では、自分が老人に近づいたので、いくばくかの親しみを込めて「老人」という言葉を使ってみた。
この句集及び収録句の制作にあたっては、多くに人々のお世話になった。また、多くの物事から恩恵を受けた。その一切に感謝申し上げる。
とあった。集名に因む句は、
風は歌雲は友なる墓洗ふ 尚毅
であろう。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
顔焦げしこの鯛焼きに消費税
石鹸玉寝そべる人に当たりもし
なめくぢに添ふなめくぢや梅雨菌
牛蛙大かるべしブーボーと
くつきりと黒々と皆秋の暮
行く道は帰る道なり芋嵐
とまらんとする冬蜂や風の菊
はじめから無かりしごとく水涸るる
大綿の小さきつばさ見えて飛ぶ
富士ぬつと黒く憂国忌なりけり
海荒れてゐる日もここで日向ぼこ
黒き蝶赤きところを見せにけり
ふるへゐる花また一つ風に飛び
何屋とも知れざる家や夏柳
緑蔭や音が聞こえて風が来る
雨吸ひし茅の輪といふはすさまじき
犬猫に無く我にある夏休
明易やもの置けさうな凪の海
風鈴の下に老人牛乳屋
岸本尚毅(きしもと・なおき)1961年、岡山県生まれ。
撮影・芽夢野うのき「槐見るみんな老婆や雨上がる」↑
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