2016年4月27日水曜日

加田由美「涅槃哭く蟹の姿に生れ合ひ」(『桃太郎』)・・・



句集『桃太郎』(ふらんす堂)の帯の略歴によると、加田由美(かだ・ゆみ)1945年和歌山県生まれ。1969年に山口誓子に師事、「天狼」入会。94年「天狼」終刊の時に、第一句集『花蜜柑』(ふらんす堂)を上梓。96年「紫薇」創刊に参加、2013年「翔臨」入会とある。
句集名になった句は、

    「桃から生れた桃太郎」蚊帳の子に

因むものだろう。
実にすっきりした装丁の句集で、一瞬、菊地信義の雰囲気をまとっているが(装幀は和兎)、何と言ってもカバーの手触りの紙質が特徴かもしれない。最近は殆ど姿を見せなくなった革装に似た湿りをもっている。
20年間の句業から308句収録というのだから厳選なのかも知れない。

   歳時記の「醜く茂る」藪枯らし

藪枯らしが「醜く生い茂る」とあるのは『合本俳句歳時記・第三版』(角川書店)。別名、貧乏蔓。

   夜桜も夜桜の図も音あらず

には、根源俳句を領導した頃の誓子の匂いも残しているのかも知れない。

   青鷺の背ナのあたりが中田剛

中田剛はその若き昔、確か、三浦健龍(父は雲母同人だった三浦秋葉)の「鷺」同人だったころから、寡黙で、筋の通った俳人の印象があった。
ともあれ、いくつか以下に印象深い句を挙げさせていただく。

   こぼれのこりし一粒を竜の玉
   サングラス外すや堂々たる醜女
   水蜜桃ふれ合はぬやう動かぬやう
   後の世の故郷明るし返り花
   「みてませぬ」フェンス咥へて蛇の衣
   一花も見ず一望に蓮畑
   雲の峯あるべきやうにつひえさる
   ゆつくりと夕日ののぼる雛の段

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