2017年3月6日月曜日
所 山花「ここよりは冒険の旅老の春」(『山こそ思へ』)・・・
所 山花『山こそ思へ』(文學の森)の集名となった句は、
兎追ひし山こそ思へ葛の花 山花
高野辰之作詞の唱歌「ふるさと」を踏まえた句である。著者自身の故郷・岐阜県揖斐郡(旧)長瀬村を二十年ぶりに訪ねた折り、2009年の作品だという。著者は本年90歳を迎える。ブログタイトルにした句「ここよりは冒険の旅老の春」には、たとえ高齢であってもなお志を失わない潔い姿勢が伺える。句歴もながく,「鶴」に拠り、師は石田波郷である。したがって石田波郷を詠んだ句は枚挙にいとまがない。
水仙やすべて遺書めく波郷の書
岸田稚魚氏を悼む
波郷忌に続く稚魚忌となりにけり
春三日月永久にやさしき波郷の眼
酒中花は波郷の椿ひとつ咲く
師の忌まで残す一顆の富有柿
青柿や風鶴忌には遠かれど
風鶴忌は波郷忌のこと
波郷忌は11月21日、稚魚忌は11月24日である。著者はまた地域でさまざまな活動もされているらしく「岐阜藍川九条の会」の呼びかけ人にもなられているという。便りには「私にとって、平和を考える原点は『沖縄』だと考えておりますが、平和憲法が作り出してきたこの70年間と憲法九条を孫子の時代に伝えるべく、今後も句作を通して精進しいたす所存です」とあった。
というわけで沖縄の句も多い。
歩き歩きて沖縄戦の汗噴けり
異国基地撤退をこそ揚雲雀
被弾して落花無尽の特攻機
波花は海のまぼろし沖縄忌
葱坊主より玉砕の兵のこゑ
アダンの実抱きてこそ恋へ不帰の子ら
ペン持ちてゐるだけのこと原爆忌
凧揚げて戦に遠き国の子ら
他にも愚生好みの佳句、秀句を以下にいくつか挙げておきたい。
消え花の谷来れば春雪の国
「消え花」は長野県北部山村の方言。
春の暖気のため田の雪の白色が消えて青灰色半透明
になること。「消え花がきた」ともいふ。
噴水や忘れられゐる被爆死者
海のしわ陸(くが)のしわ梅雨の千枚田
学校のオルガンを弾いて出陣せし学徒兵あり
冬紅葉オルガン永久に音を絶つ
晩年の母に柚子の香この世の香
陽炎(かげろう)や兵の墓より兵のこゑ
所山花(ところ・さんか)1927年、岐阜県生まれ。
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