2020年2月24日月曜日

皆川燈「起きよはや垂氷したたりはじめたり」(『朱欒ともして』)・・・



 皆川燈第二句集『朱欒ともして』(七月堂)、本集の集名に因む句は、

   朱欒ともしてケンムンと二人っきり    燈

著者「あとがき」には、

 (前略)本句集のタイトルは第二章に収めた二十句の中の一句から採った。この二十句は二〇一七年十一月に、夫や友人たちと加計呂麻島を訪ねたときの旅が下敷きになっている。加計呂麻島は周知のようにトシオとミホが出会った場所である。私が二十代のはじめに「対幻想」という言葉を知ったとき、同時に私に迫ってきたのが島尾敏雄の作品群だった。あの日、夕闇迫る呑之浦に分け入って自分の原点に立ち返る思いがした。
 本句集の表紙絵を飾る絵は、その旅へと誘ってくれた加計呂麻島出身の友人のお嬢さん、司香菜さんの作品である。

 と記されている。また、

 各章の最期に「DOU みそひともじをみちづれに」と題して短歌風三十一文字と俳句のデュエットを収めた。拙い試みではあるが、古い詩型が五分と五分で響き合うことを夢想した。

 とある。 まずその「DUO・・・」の中から、

  『パルチザン伝説』を夜ごと読む日々よ汝の柩の窓を思いて
  アンデスのリャマの毛糸は炎いろ

  のえらいてういちこやすこやきびきびと織り機は午後のシャトル飛ばしぬ
  冬深し絹の着物という伝言

  蛸壺からの連帯という葉書くる蛸壺ゆらし潮を思えり
  新聞紙にくるまれぬくき寒玉子

  ひたひたと寄せる近江の真水あり浮御堂まで歩いて候
  さみだれのにおい『緑色研究』は

  わらわらと母親たちが緑陰を抜け出て歩行巫女となりゆく
  縄文の甕にまきつく秋思かな

  毬投げあったりして幸せな日々でした市ヶ谷本村町は新緑
  花盛りの森よ日当るバルコンよ

 いずれ、これらの詞書のようでもあり、そうでもないようである三十一文字は、皆川燈が閲してきた時代を負っていよう。いわば句よりも、沈潜することなく、それらをくきやかに伝えていると思われる。
 ともあれ、以下には、愚生好みに偏するが、句をいくつか挙げて置きたい。

  アキアカネの大洪水を抜けられぬ
  天も地もいのちみなぎる辺土(ほとりのくに)
  訣れがたきこの世と言えり青蜜柑
  磔刑の手足やわらぐアキアカネ
  一位の実落としたちまち飛び去りぬ
  火を焚けばここら解放区(カルチェラタン)なる
  臈たけて千年のちも苦蓬
  あやめの辻でこころが曲がる振り返る
  老い方が足りぬしろばなさるすべり
  
 皆川燈(みながわ・あかり) 1951年秋田県生まれ。


撮影・鈴木純一 「真言の中をすすめて沈丁花」 ↑

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