2020年12月26日土曜日

井上花風「南無妙法蓮華経風の花花の風」(『日々是好日』)・・・

 


  井上花風第一句集『日々是好日』(文學の森)、懇切な序は五島暎巳、その冒頭近くに、


 (前略)『日々是好日』には、花風さんの教員時代や家族愛や定年後の作品が収められている。骨格のしっかりした句柄で、ユーモアも効いている。読みすすむとウエットな心象も彷彿してくる。(中略) 

 花風さんは体力、気力にあふれ、気丈な明るい先生だったようだ。趣味はスキーと登山。声は大きい。定年退職してからは、爪にアートなマニキュアをして楽しんでおられる。大柄で元気だった句柄は、近年お母堂様を亡くされ、細やかな悲喜の句に深みをみせている。

   川床に蟬の声沸く立石寺

   荒紫蘇を耕し汗す元教師

   熱の口中青空につがい蝶  (以下略)


 と、記されている。そして、帯の句と惹句は、


  雁帰月空ひろびろと母の墓

  花風さんは両手を拡げた欅のような俳人である。


 である。また、著者「あとがき」の中には、


  「車座」では毎年、俳句朗読会が行われる。そのために複式呼吸の訓練もある。恒例の、芭蕉「奥の細道」の暗唱は厳しくも楽しく、声が磨かれる。また、先生が同人の一年一句秀をピアノで弾き語るスペシャルライブは「凄い」の一言、感涙である。

 音楽家でもある師は、日本をはじめ世界の各地において、ピアノで弾き語る「俳句ライブ」の公演を四十年間続けてこられた。


 とある。集中、句集名に因む句は、


  日々是好日耳裏白き一農婦       花風


 であろう。ともあれ、以下に愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


       師・五島暎巳制作の齋藤愼爾の句碑〈梟や闇のはじめは白に似て〉

       を訪ねて山形県酒田市飛島へ。その夜の句会で特選を得る。

   飛島や句碑の梟鳴き初む

   母子手帳おぼろ月夜に見失ふ

   凌霄花神話の女の髪絡む

   泰山木白濁もあり晴天に

   寒夕焼ボールは空に穴を開け

   猪子槌連れて帰るのときどきは

   紙飛行機タンポポに触れてとまる

   陽水聴く芹茹でる窓春の雪

   虎落笛父声荒く帰宅せり

   はなびらが散り終るまでは紫木蓮


 井上花風(いのうえ・かふう) 1953年、静岡県生まれ。



撮影・鈴木純一「綿帽子あなたこなたと会釈して」↑

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