2022年11月30日水曜日

金田一剛「豆腐屋の槽(ふね)の底から水の澄む」(第43回「ことごと句会」)・・


  第43回・メール×郵便切手「ことごと句会」(2022年11月19日付)、兼題は「理」+雑詠3句の計4句出し。以下に一人一句と寸評を挙げておこう。


   鰤並び競りの手ぶりの速さかな        杦森松一

  柿落葉 明日明後日明々後日         金田一剛 

  薄情も自愛も時に老介護           渡辺信子

  椎の実の雨樋(とよ)を転がる夜寒かな    武藤 幹 

  冬木立風の噂は聞かぬふり          江良純雄

  そぞろ寒む棚の撓みの遺物かな        渡邊樹音

  理科室の骸骨さんに初時雨         らふ亜沙弥

  曇天の秋日に慣れし竿のウキ         照井三余

  ふくら雀一歩一歩の世の幸を         大井恒行  


【寸評】・・

・「豆腐屋の・・」ー「豆腐」以外に何も語らず「水の澄む」と結ぶ(三余)。水の冷たさに豆腐を掬う赤らんだ掌が見えます(信子)。

・「鰤並び・・」ー臨場感ですね。師走の活気が伝わってきます(樹音)。

・「柿落葉・・」ー庭にちいさいけれど3本の柿の木、落ち葉の赤さは何とも美しく、きれいな葉を選んでは玄関の靴箱の上、玄関の格子戸に挟んだりと、直ぐに枯れてしまうまで楽しみます。実ですか、どうやら渋柿、鳥たちに食べさせています(亜沙弥)。

・「薄情も・・」ー内容が教科書的に正しいが、それが嫌味なく「俳句」成立!見事だ、特選だ!!(幹)。

・「椎の実の・・」ー「椎の実」と「夜寒」の季重なり、「速さかな」とサラリとしたい(三余)。

・「冬木立・・」ー人の便りもない寂しいところでは、噂さえも届かない。あえて聞かぬふりをする強がりがかんじられてしまう(松一)。

・「そぞろ寒・・」ー遺物は思い出の品か。棚の撓みは心理的な撓み。辛い思い出によるそぞろ寒」(純雄)。

・「理科室の・・」ー20番の句「理科室の窓から冬ざれの匂い」と同工だが、こちらは、いささか滑稽味のある「骸骨さん」。初時雨との取り合わせに功がある(恒行)。

・「曇天の・・」ー魚を釣る人でなければ、うまく説明できないだろう。さて晴天と曇天とどちらが食いつきがよいのだろう?(恒行)。

・「ふくら雀・・」ー冬の雀は不思議と米屋の前に集まります。「米」の文字が読めるのか、店の親爺が撒いているのか(剛)。



★閑話休題・・中田美子「天中に春半月と笛の音」(「ユプシロン」NO.5)・・


 その中田美子の「あとがき」に、


 (前略)初学のころ読んだ詩にはこんな一節があって、最近わりと身に染みる。

     人生は生きがたいものなのに

     詩がこう たやすく書けるのは

     はずかしいことだ。

                伊 東柱「たやすく書かれた詩」


 とあった。ともあれ一人一句挙げておこう。


   少年の手から素直に食べる鹿     岡田由季

   不在そしてぶらんこは風によじれ  小林かんな

   祈るその前に息吸う冬帽子      仲田陽子

   一区画相続となり蜜柑山       中田美子



        目夢野うのき「銅吹きの銀杏の色の濃かりけり」↑

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