掲句は、先般、上梓された遠山陽子第5句集『弦響』(角川学芸出版)からのもの。帯には高橋睦郎が「陽子さんの近作に敏雄蘇生しての新作かと驚くこと屢々だ」と賞揚。集中、『弦響』の巻尾に「敏雄に和す」と章立てして、陽子句が置かれ、三橋敏雄の原句と併記されいる。因みに掲句は以下のように和している。
世界中一本杉の中は夜 敏雄
かき抱く一本杉の中は秋 陽子
以下、いくつかを挙げておこう。
人は燈をふやす夕べぞ秋のかぜ 敏雄
人は火を作る夕ぞ渡り鳥 陽子
原爆資料館内剥き脱ぐ皮手套 敏雄
革手袋落してきたる爆心地 陽子
労働際赤旗巻かれ棒赤し 敏雄
国民学校荒梅雨の万国旗 陽子
鬼赤く戦争はまだつづくなり 敏雄
鬼も見よ氷河はすでに溶けはじむ 陽子
はつなつひとさしゆびをもちゐんか 敏雄
くすりゆびつかはず桃を交配す 陽子
太陽は目にいつぱいの暗い事態(チェルノブイリ) 敏雄
収束不能(フクシマ)を敏雄は知らず敏雄の忌 陽子
遠山陽子(本名・飯名陽子)昭和7年東京市生まれ。本句集は平成17年から26年までの作品376句所収。この期間は個人誌[玄」に『評伝 三橋敏雄―したたかなダンディズム』を執筆連載した期間に重なる。
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