宗本智之『かたこと~旅人~』(牧歌舎)、前書き「気まぐれの続き」の冒頭付近に以下のように書かれている。
二〇一四年、第一句集『かたこと~旅始~』出版。あれから三年、自分のための作句といえど、さすがに朝日新聞俳壇八度目入選から約一年九ヶ月。毎週、選りすぐりの俳句が、ことごとく落選していき、楽しいはずがない。月曜日が、その入選句発表なのですが、もはや月曜日恐怖症に。そんな中、北の句会の皆様の応援と、銀遊句会での、皆様のご共感だけが、なんとか私を繋ぎとめていました。
確かに、新聞俳壇に入選することは彼にとって励みだったのかもしれない、と思う。だが、と愚生は思った。かつて折笠美秋は筋委縮性側索硬化症で、「雪うさぎ溶ける 生きねば生きねばならぬ」「燕ら去る西空 俺 死んでたまるか」「気管切開(のど)開(さ)かれて声失う 大雪来ているという」「呼吸(いき)ととのう 菜の花明り 胸明り」(『君なら蝶に』)などと詠んだ。それらの句は新聞俳壇に投句し入選するためにではなく、俳句のために句を書き、その俳句に共感してくれる人のために句を書いていた、というように思われる。新聞俳壇の句の多くが、言えば語弊があるかも知れないが、俳句の本流ではなく、ある種の平均的な通俗的な俳句象しか示していないことは、むしろ自明のようである。だから宗本智之が奇しくも「北の句会」「銀遊句会」での皆様の共感だけが、私を俳句に繫ぎとめていた、というのはむしろ正しい在り様だと思うのである。
今回の句集は第一句集からのち、三年間に創った五千句以上から選句し、
句集の形式は作句した年月別。(中略)各月前半五句は朝日新聞俳壇投句及びに二〇一一年三月から始めているブログ「一日一句」(URLは、http://beagle510.blog52.fc2.co
ともあった。解説に時田幻椏「句集『かたこと ~旅人~』に寄せて」、跋文には北村虻曵「野を遊ぶ」と堀本吟「撓る生命線」。また「あとがき」には、
デュシェンヌ型筋ジストロフィーという遺伝子疾患で寝たきりの生活をしている私は、常に出来ることを模索し、やり続けてきました。理学博士号取得以降、気管切開手術を受けてからこれが五冊目の出版です。少し難しい生活の中ですが、こうして自由に数々の活動ができるのも、皆様の応援のおかげです。いつもありがとうございます。
とある。あわせて巻末著者略歴を読むと、エッセイ『私の世界』、画集『心の旅』、詩集『七色の詩』などを出版するなど、著者の並々ならぬ行動力と精神力を思う。ともあれ、句集からいくつかの句を挙げておきたい。
名月を含めば杯の重さかな 智之
春めくや光は胸に音を打つ
日の人となりて真夏の匂ひかな
立秋の空の匂ひを嗅ぎにけり
秋深し褪せて初めの色に帰す
息白し我が霊魂の使ひ捨て
山眠る光の呪文届くまで
手の触れて森閑とする凍の朝
宗本智之(むねもと・ともゆき)1978年、大阪府守口市生まれ。
0 件のコメント:
コメントを投稿