2017年6月6日火曜日

川村研治「おほかたの蟻はといへば行つたきり」(『ぴあにしも』)・・

 

 川村研治第二句集『ぴあにしも』(現代俳句協会)、第一句集『花野』(昭和61年刊)以後、平成25年までの570句を収める。「あとがき」に、

  俳句に対する考え方は千差万別であろうが、自分の言いたいことを叫んだり、考えを押し付けるのではなく、読者の懐にしずかに入りこんでゆく、といったことをこれからも考えていきたいと思っている。そうしたことから句集名を「ぴあにしも」とし、以後の自分の行き方の指標にしたいと思っている。

とある。ただ、次の句などが集名の由来に近いのではないかとも思ったりするのだが・・・。

  ピアノピアニッシモ猫の子が眠る

どうやら、猫好きの人でもあるようだ。集中に猫の句も多い。ただ開戦日には、また敗戦日にはかかさずその日の句も詠んでいるようだ。こうした社会的な素材を詠む場合も「あとがき」に記した心持ちが生きている。アトランダムに句をあげると、

  テロありしより綿虫の夏もとぶ     研治
  九月十一日ペンギンのぺたぺた歩き 
  舌出して眠る黒猫終戦日
  太陽が白い十二月八日かな
  海牛の背中が乾く昭和の日 
  屋上は土砂降り憲法記念の日
  フーコーの振り子ゆつくり終戦日
  十二月八日眼鏡の塵ぬぐふ

ともあれ、他にもある印象的な句を以下にいくつか挙げておきたい。

  バレンタインデーふりむかぬ猫呼んでおり
  冴返るものそのもののかたちかな
  月白や枕に穴があいてゐる
  日脚伸ぶ雀にもある影法師 
  なんたること蟻が我より早かりき
  人はみな花のあたりをさまよへる
  雛飾るいくたび父のほろびしか
 
川村研治(かわむら・けんじ)昭和14年、東京都生まれ。




  

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