津田このみ第二句集『木星酒場』(邑書林)、坪内稔典は帯に以下のようにしたためている。
裸たのし世界よ吾に触れてみよ
津田このみの俳句は身体が世界を感受している。
なんだかまぶしく、なんだかおかしい。
その俳句の私は熱烈なファンだ。
集名の『木星酒場』に因む句は、
雪の夜の木星という酒場かな このみ
だろう。
一読、「木星酒場」のような固有の名を詠み込んだ句が多いのに気づく。またそれが一句のなかでいい具合な主張を句にもたらしている。ランダムに挙げてみるだけでもそれが分かる。以下の句がそうだ。
野遊びやバカボンパパの年越えて
ダライラマきびきびと行く立夏かな
ダリのひげくねくねと残暑かな
天高く林家ぺーとパー子かな
秋灯ゴッホとテオのようにいて
火事跡よ松田聖子のポスターよ
霜の朝眉しかめてもぺ・ヨンジュン
モーツァルト聴かせてみたき海鼠かな
ベッケンバウアーという顔をして蛙かな
膝抱え川上弘美読む̪̪霜夜
ともあれ、他にいくつかの句を挙げておきたい。
恋人をよじ登りたる蟻ひとつ
夫もと好きな人なり桜の実
寒林をバルビゾン派として歩む
「あ」と言えば「あ」と返したる初鏡
飽きるまで見つめて飽きて冬の波
すぐ傷む苺と家族と愛人と
桃の花元気と決めてから元気
もやもやの下界のあれを花と言う
ああ蟹はくすぐったいね蟹の穴
津田このみ(つだ・このみ)、1968年大阪生まれ。
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