2018年8月30日木曜日
対中いずみ「亡き人の眼をのみ畏る稲の花」(『水瓶』)・・・
対中いずみ第三句集『水瓶』(ふらんす堂)、集名の由来については、多くの句が「びわこ吟行」で生まれたといい、
(前略)それは瓶に一滴一滴水をためるような日々でした。また、日本最大の湖であり、近畿の水瓶と言われる琵琶湖へのリスペクトもこめて集名といたしました。
とある。集中、愚生は龍の句に注目した。何らかの比喩がそれらの龍に隠されているのではなかろうか。
浅春の岸辺は龍の匂ひせる いずみ
うら若き龍が氷雨を降らすこと
冬うらら龍の巻髭伸ばしたく
葉桜やさざなみは龍秘するごと
どこからが龍どこからが秋の水
わたくしの龍が呼ぶなり春の暮
龍絡むごとくに雲や後の月
また、ブログタイトルに挙げた「亡き人の眼をのみ畏る稲の花」は、当然ながら、田中裕明の「空へゆく階段のなし稲の花」の句が下敷きにあると思われる。また、
鳥のほか川しづかなる裕明忌
には、田中裕明「小鳥来るここに静かな場所がある」を脳裏に置いて詠んでいる。句を詠むことのなにもかもが「亡き人」との対話によって創造されているのかもしれない。それは、たぶん琵琶湖を吟行しているときもそうだろう。
ともあれ、他のいくつかの句を以下に挙げておこう。
春の水杉の古実を沈ませて
蟬の殻片手一本にて吹かる
冬あたたか万年筆もその声も
大ぶりの茸世尊に捧げしか
氷のかけら氷の上を走りけり
対中いずみ(たいなか・いずみ)1956年、大阪市生まれ。
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