2019年2月14日木曜日
九堂夜想「忌の空につるめる蝶の紅万字」(『アラベスク』)・・
九堂夜想句集『アラベスク』(六花書林)、「あとがき」はなく、略歴も簡便。飾りは表健太郎の帯文のみのシンプルな出で立ち、真田幸治の装幀も良い。集名は、以下の句に因んでいるだろう。
春深く剖かるるさえアラベスク 夜想
表4側の帯に、
初めて、「九堂夜想」の文字を見た瞬間、ぼくはこの名の主が、虚構と幻想の論理を巧みに操れる曲者に違いないと察知し、それは確かに当たっていた。ー表健太郎
とある。約500句、鳥の句の占める割合の多さ、そして、いわゆる樹・草・虫・魚・で彩られた織物という感触である。いずれの句を挙げても、その表現された世界のレベルは保たれているので、読者による様々好みの句を抽き出してくることができるだろう。
太陽のあばらは視えて十字街
あゝ死児の頭上に千の太陽が
日(ひ)の沖へ合掌泳ぎの王母らよ
ともあれ、無作為ながら以下に鳥の句をできるだけ挙げておこう。自ずと著者の趣向が伺えると思う。
鳥游ぐらし夥しき佚書に
王亡くてひたに孔雀は卦踊りを
ゆく鳥や崑崙の葱ひとすじを
貌鳥は貌をはずせり姉の門
鳥風や彩なす雲を乳柱に
地類あゝ鳥雲に影奪い合い
諸がえり日は血脈を濁らせつ
鳥雲にながるる妣の雲脂(ふけ)ならん
古歌にわななく火食鳥と地と
重力の十指の影の鳥や雲
鵟ども千痕の日を剥き垂らし
鳥やみな日に忘らるる花うてな
鳥透くは他界にちぇ秋果つるべし
瑠璃鳥や姉のまなこに入水して
鳥古りて虹にすわるる日やあらん
孔雀大虐殺百科辞書以前
黒鳥に太陽はいや冷えゆくも
鳥風や祖(おや)を殺めし石(いわ)と手と
鳥や絶ゆ̪眦すでに砂を引き
ねむりては孔雀の刻(とき)をガラスペン
空井戸や薄荷匂える鳥女
鳥女ふと草市は静もれる
鳥女氷砂糖に涙して
咲わんか数(す)に鳥女あゆめるを
ひたぬらす幻日なれば鳥おんな
鳥女抱けばせせらぐ逆さ水
忌木なか火に産卵の鳥おんな
劫をゆく無頭の鷹とおもわれて
ふたなりを太陽鳥は叫(おら)ぶらん
鳥類は裂ける太陽系覃(ふか)く
鳥の王鳥へは遺響のソプラノを
裏声の母喰鳥が直紅(ひたくれない)
卵生の兄まどろめる匂い鳥
鳥食らつとに毬(があが)を咥えては
鳥過ぎて野には呻めく石柱
日を離ればなれの鳥や石室や
無門とや何首鳥(かしゅう)匂える踏みはずし
唾打ちのしばらく巫鳥吃るかも
さえずりや野の大糞の神さびを
鳥葬の冬青空の拉鬼体
野巫なんで美食の鳥を眸(まみ)の上
夕の鳥ふいに筮へ刺さらんと
罔象(みずほ)きて紅葉鳥らの仮声は
空国の鳥ひこ塩を娶るとや
虚國(ここく)ではてのひら祀るとぞ雁よ
鳥撒きのくさめ鳴物停止(ちょうじ)とや
かりがねや霧食みのみな虛國とぞ
鳥ひそと他屋にかくるる根踊りや
つくよみや鳥錆びの海ふるわせて
姑獲鳥なら白蓮の夜を梳くだろう
玉吸いの命命鳥かひな曇り
劫をきて虚空守とや命命鳥
命命鳥おんおんと石哭くものを
鳥身の兄を降ろせる散米や
ひもし鳥とて裏海を祓わんと
夜鳥また内紫貝(うちむらさき)を月小屋へ
鳥絶つに天衣の胸の遊(すさ)ぶかも
九堂夜想(くどう・やそう) 1970年、青森県生まれ。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
ご多用の中、拙書をご紹介いただき有り難うございます。
返信削除どういたしまして・・歌壇・俳壇の会ににて六花書林・宇田川寛之に会いました。正寸の本作りでないので、ちょっとした苦労話もでました。売れるといいなぁ・・と言っていました。大井拝
削除