是永舜句集『間氷期』(書肆山田)、「後書」その冒頭に、
俳句に親しみ、意中の俳人に私淑することはあっても、私に世にいう句歴というものはない。自らの愉しみのなかで、私にとっての小さな発見もある。召波(旧かな「ぜうは」)に「陽炎に美しき妻の頭痛かな」の一句があるが、師の蕪村に「水仙や美人かうべをいたむらし」がある。召波の「少年の犬走らすや夏の月」、「山犬のがばと起ゆくすゝき哉」などに詠まれた犬たちは今も眼前にその身を躍らすかのようである。
とあり、また集名については、
まことにおこがましいことではあるが、私のこの句集の書名に取った拙句「海月知る海鼠の恋や間氷期」は、召波のかの一句「憂きことを海月に語る海鼠哉」への勝手なオマージュとして詠んだものである。俳号の「舜」は。本名の「駿」と同音の字から取ったもの。「舜」はつる草の一種、転じて「木槿」を指す植物名称である。中国太古の聖天子の名でもあるが、本意は植物。本名の動物から植物へと移り、路地に咲く木槿をこよなく愛でる意を込める。
とあった。ともあれ、以下に、集中より、いくつかの句をあげておこう。
初午やうぐひすさそふ風の空 舜
風車門前の市はや流転
浮雲をきのふの蓮に雨蛙
潮騒や汚(けが)れなきもの生まれゐる
遠花火遅るゝ音の惚(とぼ)けたる
新涼や一顆翡翠の深き色
寠(やつ)す身のあるはずもなく秋の風
進軍は静かなる海鰯雲
故(な)き人をさてこそ訪(と)はむ萩の花
あら尊(たふと)俯しては拾ふ骨の秋
真(ま)つ直(つぐ)や寒夜忘るゝ粋科白(ぜりふ)
わが手にも燧(ひうち)の習ひ冬の山
月隕(お)ちて白山の雪ほの青し
去年今年なにより餅のやうなもの
三が日過ぎて空空漠の風
是永舜(これなが・しゅん) 1943年福岡県生まれ。
撮影・鈴木純一↑
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