「新・黎明俳壇」第4号(黎明書房)、特集は「夏目漱石VS.芥川龍之介」、例によって、「各8句を武馬久仁裕が選び、組み合わせ、気鋭の俳人8人に、伝記によらずに、俳句の言葉に即して鑑賞していただいた」とある。いわば漱石と芥川の句合わせである。その執筆者は、赤野四羽、月城龍二、山本真也、川島由紀子、山科誠、なつはづき、田中信克、千葉みずほ。季節柄、ブログタイトルにしたのは秋の句。VS漱石の句は「白き皿に絵具を溶けば春浅し」、論者は山本真也。それには、
漱石の句よりは、葡萄と秋に直接的なつながりがあるものの、やはり食べ物という遠い二者の間に一本の橋をかけた。(中略)芥川のこの句は漱石とは反対に、逆説の連関と取って良いかもしれない。あまりに濃密な果実を味わうことで覚えた、罪の意識。嚙み捨てた葡萄の皮のごとく、秋そして冬と世界は死んで行く。実りを食い潰したこの口で、挽歌を歌おう。蕭条とした素風の中で。
と結ばれてあった。他の論者も、気鋭らしくイキが良いので、直接、本書に当たられたい。ともあれ、特選句とユーモア賞の句を紹介しておこう。
【特選】
地球儀の海の青さも淑気かな 安城市 山口正惠
春昼や魔法の効かぬ魔法瓶 静岡市 栗岡信代
葉桜や音沙汰なしの友来たる 豊田市 甲斐由美子
【ユーモア賞】
まご沢山でもお年玉はあげないよ 碧南市 斉藤きよ子
梅の花一度は行きたいラブホテル 碧南市 生田智子
声ひそめ護憲談義の武者人形 西尾市 丸目藤二
【新・黎明俳壇への投句のお誘い】/投句料は無料。締め切りは、9月末、11月末、1月末、3月末、5月末、7月末。結果は翌々月の1日に黎明書房ホームページに発表。
・投句は一回につき2句まで。462-0002 名古屋市中区丸の内3-6-27 EBSビル 黎明書房 黎明俳壇係。メールは、mito-0310@reimei-shobo.com
・未発表作品に限る。二重投句不可。詳しくは、黎明書房ホームページをご覧下さい。
★閑話休題・・川上弘美「秋彼岸叔父のみやげは水グラス」(『文豪と俳句』より)・・・
岸本尚毅『文豪と俳句』(集英社新書)、「新・黎明俳壇」第4号の特集つながりで・・・。もちろん夏目漱石、芥川龍之介も入っているが、現役で活躍中の作家で、一章が与えられているのが、唯一、川上弘美である。その副題に「小説をヒントに読み解く俳句の謎」とある。「はじめに」で岸本尚毅は、
小説家の作風が多様なのと同様、その俳句も多様です。
泉鏡花、内田百閒(ひゃくけん)、川上弘美などの句は。その小説と同質のあやしさを漂わせています。
幸田露伴、尾崎紅葉、森鴎外(おうがい)、室生犀星(むろうさいせい)などは、日記や評伝から窺(うかが)われる作家の生き方と俳句との関わりが興味深い。
俳句を俳句として読ませるのは芥川龍之介です。
太宰(だざい)治や宮沢賢治は俳句に中でも太宰であり、賢治です。(中略)
多様な小説家の多様な俳句にどう切り込むか。頭を悩ませながら書き進め、最終章では夏目漱石対永井荷風の句合わせを試みました。はたしてどちらが勝つのでしょうか。
ともあれ、本書より一人一句を挙げておこう。
蝶の羽に我が俳諧の重たさよ 幸田露伴
渾沌として元日の暮れにけり 尾崎紅葉
春浅し梅様まゐる雪をんな 泉 鏡花
死は易(やす)く 生は蠅にぞ 悩みける 森 鴎外
蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな 芥川龍之介
秋立や地を這(は)ふ水に光りあり 内田百閒
日ぐらしや主客に見えし葛の花 横光利一
夜となりて他国の菊もかほりけり 宮沢賢治
鯛(たい)の骨たたみにひらふ夜寒かな 室生犀星
追憶のぜひもなきわれ春の鳥 太宰 治
目ひらきて人形しづむ春の潮(うみ) 川上弘美
落る葉は残らず落ちて昼の月 永井荷風
風に聞け何れか先に散る木の葉 夏目漱石
岸本尚毅(きしもと・なおき) 1961年、岡山県生まれ。
芽夢野うのき「から泣きのコムラサキの実泣きだしぬ」↑
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