2021年9月30日木曜日

酒井弘司「星涼しこの世の人は灯をともす」(『地気』)・・・


  酒井弘司第9句集『地気』(ふらんす堂)、平成26年から令和2年までの7年間、371句を収載し、70歳代の後半から80歳代初めの作品だという。「あとがき」の中に、


 句集名の「地気」は、辞書をひもとくと、「動植物をはぐくむ大地の精気」とある。

 北丹沢の鄙びた谷戸に長らく棲んで、見えないが天地を充たすもの、その精気の働きに惹かれてきた。

 その谷戸を、くまなく歩き、ときに畑を耕して俳句にしてきた。今は、この七年間の軌跡をよしよしたい。


 とあった。ますます、自在の境地というべきか。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を以下に挙げておきたい。


  天上のシリウス帰途の見えぬ旅      弘司

  立夏・小満・芒種天地のはじけくる

  小鳥くる戦火の話などもって 

  この星に生まれいのちのあたたかし

  青山河声を挙げねばわれ在らず

  太陽系の外から届く水の音

  虫の音を踏まないように闇の道

  手で掬う真水のひかり白露くる

  飛ぶ電波見えず勤労感謝の日

  三月十日過ぎ十一日光の中

    誕生日

  長崎忌わが生まれしは朝のこと

  カンナ燃ゆまっすぐに立てわが叛旗

  吊革の誰もが揺られ開戦日

  天命という言葉ふと二月尽く

  どくだみ白し青春の旗遠く遠く

  戦後遠しどくだみの線路跨ぐとき

  鳥になれず少年歩く夏の朝

  冬銀河死は遠くとも近くとも


酒井弘司(さかい・こうじ) 昭和13年、長野県に生まれる。



  芽夢野うのき「さざんかさざんか日輪がさめざめ涙した」↑

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