地畑朝子『まつすぐに』(ウエップ)の集名は、以下の句からもものだろう。
まっすぐに控え目に生き更衣 朝子
序文の酒井弘司は他にもある二句、
まっすぐが好き冬欅並木ふりむかず
まっすぐに今日のわたしへ日傘さす
を挙げている。「七十歳に手が届く頃から俳句を始め」(「あとがき」)たという著者だが、なかに興味をひかれたのは、前登志夫を悼み、偲ぶ句が三句もあったことである。
歌人・前登志夫を悼む
大和讃歌五月の空へ木霊せり
前登志夫逝き五年の朝櫻
朝ざくら登志夫の声す空耳か
前登志夫は、自らの歌を、たしか「魂の反響としての詩」と述べた歌人ではなかったか。その真摯な魂をこの著者はみているのだろう。
ともあれ、いくつかの句を挙げておこう。
手庇の離るる風の夏に入る
梅雨の蝶吾もきらめく雨のあと
大樹いま囀りとなり応えけり
ごつごつの柚子君考えすぎたのか
すこし老いすこしかたくな茄子を焼く
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