2017年4月4日火曜日

安井浩司「ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき」(『ひるすぎのオマージュ』より)・・


大関靖博著『ひるすぎのオマージュ』(ふらんす堂)。帯には、安井浩司の以下のオマージュが配されている。

 山中の暗闇の難路を征く一介の旅人に、岩陰より奇蹟の恵燈を送ったのが本書であろう。そればかりか、苦難の現代俳句そのものを高く導き、真のビジョンをそこに探り当てようとした稀有の一巻といえよう。

本書は一冊すべてが安井浩司論である。しかも、当初より一貫して安井浩司を射程に入れて追及してきたことが伺われる。その初出は、「季刊俳句」(昭和60年第7号)で、最後の掲載誌は「轍」(平成28年7月)であるから、およそ30年間に及んだものである。「季刊俳句」7号というのは、宮入聖(冬青社)が編集発行していた雑誌だから、あるいは愚生は目にしていたかもしれないが、そのほかの掲載誌、「櫂」「航標」については未見である。いわば愚生にとっては初めて読むものがほとんどなのだ。全9章に分けられいて、最後の章が、書名ともなった「ひるすぎのオマージュ」である。これは言わずと知れた安井浩司の句「ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき」考だ。
この労作といってもよい長期にわたる精緻な論考は、かつて福永耕二が大関靖博について評していたように、信頼すべき、善良で、誠実な人柄、芯の強さ、英文学の学究の徒であるということから生み出されてきていると思う。
本著には難しいと言われていた安井浩司の俳句がどのような在り様を示しているか、明解に読み解かれている。

 (前略)全体的なパースペクティブから見ると、安井浩司は私としては松尾芭蕉以来内的グローバリゼーションの俳句化に成功したはじめての俳人であると思うのである。明治以降ヨーロッパ文化を紹介したり真似をして日本文化に翻案的な俳句を作ってきた俳人は沢山いるのであるが、丁寧に消化してさまざまな要素を綯い交ぜにして身近な俳句に昇華したはじめての俳人が安井浩司なのである。
 
と評している。また、若い神野紗希や髙柳克弘が安井浩司の句にほどこした最近の読みの成果を、正しく評価し記した本書には、一読の価値があると思う。




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