2016年10月21日金曜日

長井寛「紙魚はしる『斜陽』昭和のデモクラシ―」(『水陽炎』)・・・



長井寛(ながい・かん)1946年新潟県生まれ。『水陽炎』(現代俳句協会)は、本年、第17回現代俳句協会年度作品賞を「水辺の獏」30句で受賞した作者の第一句集である。ただ、受賞対象になった作品は含まれていない。本句集のⅤ章には2016年の作品が収録されている。年度作品賞は既発表作でも可なのだが、句集のための原稿が整った後に、書下ろし作品を応募したのかもしれない。
愚生も年度賞選考委員の一人なので、選評には以下のように記している。再掲する。

 今回(第17回年度作品賞)は、昨年よりも応募が十数編増え、218編あった。正直にいうと全体的に卓越した作品は乏しく、低調だったのではなかろうか。とはいえ、僕が最後に残した長井寛「水辺の獏」は、

  一頭づつ浮雲になる紋白蝶        長井 寛
  陽炎に入る機関車の浮遊感
  
など、全体的に句の出来、完成度が高く、破綻が少なかった。、また、中には、

  大海人皇子幣振る海開き

のような一見フィクショナルな句もあり、加えて、僕は知らなかったのだが、「ランズエンド」という通販ブランド名を詠み込んだ「尺取りの越すに越せないランズエンド」には、上五・中七のフレーズの通俗さに、同意できないものの現代の猥雑さを詠み込む試みを楽しんだ。

ともあれ、作者は獏がお好きなようで、本句集にも、

  春はあけぼの貪欲な獏の吻
  獏飛んで南の島に寒波来る

句がある。「あとがき」には、

俳句は教わるものではなく自らが学んで感性を身につけるものであり、未踏の坂道をゆっくり上っていくようなものであると感じています。

と記している。その志を良しとしよう。いくつかの句を以下に挙げる。

   寒紅を引いて白狐になりすます
   天心のアジアはひとつ夏来る
   黒南風を満載にして無蓋貨車
   昼顔にあしたのことを聞いてみる
   日向ぼこ日の真ん中に居て孤独




                                                       ダリア↑

   

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