2016年10月30日日曜日

加藤静夫「梅雨菌多数決にて国滅ぶ」(『中略』)・・・



加藤静夫第二句集『中略』(ふらんす堂)、著者「あとがき」に、

 句集名『中略』は、〈ポインセチア(中略)泣いている女〉に拠る。
何事も中庸を旨とする性格のせいか、第一句集『中肉中背』同様、「中」のつく言葉に惹かれたのかも知れない。
 全句集から八年。
 その間に起きた大きな出来事といえばまず東日本大震災であろう。
 その日を境に、作品三八五句を「以前篇」一四二句、「以後篇」二四三句に分け、それぞれ、四季別に並べてみた。  (中略)
 以前・以後は糾える縄の如し。
いずれこの震災「以後」も、次の更に大きな災厄までの「以前」であったという時が来るのであろう。
 何が起きようと、私はただ、「今」を生きる「人間」を詠むだけである。
 私にできることはそれしかない。

と述べる。潔い言挙げというべきか。
加藤静夫は今、愚生の楽しみのひとつ「俳句精読」を「鷹」に連載中である。11月号には「三橋敏雄⑧」が掲載され、引用句に、三橋敏雄「日にいちど入る日は沈み信天翁」があり、

 一日に一度日が沈むのは自明の理だが、「信天翁」にとぼけた味わいがある。

と記されている。思わず、本句集の、

    天瓜粉日はほつとけば海に落つ    静夫

を想起したのだった。
集中いくつかの句を以下に、

   すでに女は裸になつてゐた「つづく」
   木葉髪飲み打つ買ふの飲む一途
   ゆふざくら六時前とはいい時間
   白魚の眼の・(ドット)・(ドット)かな
   抜くべきか憲法記念日の白髪
   国を挙げて暑がつてゐる暑さかな
   竹夫人たまさか上になることも
   ゆふべ鵙鳴く原発の後始末
   萩尾花撫子いつの世も末世
   熱燗や御一人様がもうひとり
   墓は買つたし白菜は洗つたし
   誰もみなはじめは風邪と思ふらし
   出生率下げしは私ひなたぼこ

加藤静夫、昭和28年、東京都文京区生まれ。



  

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