乾佐伎第一句集『未来一滴』(コールサック社)、集名に因む句は、
さよならのコーヒー未来は一滴から 佐伎
だろう。帯文は鈴木比佐雄。解説は鈴木光影「俳句の未来へ、命がけの跳躍をする新世代の俳人ー乾佐伎第一句集『未来一滴』に寄せて」。それには、
観覧車私は俳句を追いかける
巻末のこの一句からは、「追いかける」ことこそが俳句であるという動的な俳句観が窺える。単に客観的な立場から俳句とは何かを探し「追いかける」。その姿勢には、人生と俳句を一致させたところから言葉を生み出す乾氏の、誠実で、自由で、必死の俳句観がある。そのような「命がけの跳躍」によって、俳句だからこそ到達できる真実へとタッチし、まだ見ぬ未来へと昇っていく「観覧車」に自らを乗せてゆく。
とあった。掲句の「未来は一滴から」の句に、愚生は、どこかで乾佐伎の名に聞き覚えがあるような気がした。そして、即座に思い出したのが、
未来より滝を吹き割る風来たる 夏石番矢
の句だった。解説にも、著者略歴にも記されていないが、確かに愚生のなかで、乾佐伎は、夏石番矢・鎌倉佐弓の息女だという記憶であった。
父や母を詠んだ句も微笑ましい。俳人である父と母が未踏の道を追い求め、突き進んでいるという、その思いは、たしかに乾佐伎のなかにとどめられているようだ。
冬北斗父母作る細い道 佐伎
じつに、そうだと思った。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。
寒昴感じるための別れです
ローソクに火を君の明日に光
雪に眠る小石は母に甘えたい
どこまでも行きたいウサギは雪になる
鶯や冬のぬけがら食べて鳴く
春の闇笑う小人は何人か
薔薇の赤寂しさからは逃げられぬ
朝焼けを空に還して鳥の声
黒葡萄最後の一つはきっと雨
善い人になりたい林檎はただ赤い
金木犀の香を食べたいか猫が鳴く
乾佐伎(いぬい・さき) 1990年 東京都生まれ。
★閑話休題・・黒田杏子「戦争は終わつたのです青螢」(「祭演」NO.56より)・・
自由句会誌「祭演」56号(ムニ工房)、本誌の刊行に関する実務のほとんどを「豈」同人でもある森須蘭が尽力しているようである。今号の特別招待席は黒田杏子、招待席は今井豊。「藍生」主宰とその弟子である。本号より、その二人と「豈」つながりの俳人に限って、以下に句を挙げておこう。
螢火や兄弟姉妹ちちとはは 黒田杏子
たけなはの春橋梁に渦なせり 今井 豊
菜の花の色って説得力なんです 宮崎斗士
パセリ噛む背中うっすらしている日 森須 蘭
変身のための空間飛花落花 杉本青三郎
葉桜を仰ぐキャッチャーミットより 伊東裕起
Y字路の右も左も盆の月 成宮 颯
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