2020年3月5日木曜日

安里琉太「しづけさに五月のペンは鳥を書く」(『式日』)・・



 安里琉太第一句集『式日』(左右社)、投げ込みの栞は、岸本尚毅「ふとみたり」、鴇田智哉「共時代へのいざない」、鳥居真里子「雲籠めの白花」。帯の惹句には、

  到来し、/触発する/言葉。
  書くことは、/書けなさから始まっていると、/今、強く思う。

 と、ある。集名に因む句は、

  式日や実石榴の日に枯れている     琉太

 その「式日」は、鳥居真里子の栞文によると、庵野秀明監督の映画作品「式日」に由来しているらしい。「鳥」つながりで言えば、本集には鳥の句が多い。例えば、

  書き出しのすでに日暮れて浮寝鳥
  筒鳥や芥かがよふ沼の面
  小鳥来るほほゑみに似て疎なる川
  炎昼は未生の鳥を浮かべたる
  鳥発たす秋思いつしか鉈の形
  銀ふちの眼鏡に椋鳥のうつりこむ
  郵政や鳩あをあをとして冬は
  鴨去つて春のがらんとしてゐたり
  陶片の鋭さをもて囀れり
  老鶯や斜めに弱る竹箒
  三人に鶉の籠の暮れてをり
  秋澄むや水のおもてに鳥の糞
  ひよひよろと鳥のうからが花の中
  茶の花や鶏小屋に常の闇
  畳替へて鳥の高さにまろびけり
  うぐひすのこゑに小さく畳む紙
  
 などである。愚生が安里琉太の名をはっきりと記憶に留めたのは、一年ほど前だろうか。望月至高の個人誌、「句・詩・評論/自立の言論」のサブタイトルのついた「奔」誌の沖縄特集号であった。
 ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。

  芹の根をひきたるみづの昏さかな
  日本の元気なころの水着かな
  ひきかへすためのあしあと春の浜
  流れつくものに海市の組み上がる
  まだ誰の手にも汚れぬ焚火かな
  春暁や何の忌となく雨が降り
  永き日の椅子ありあまる中にをり

 安里琉太(あさと・りゅうた) 1994年、沖縄県生まれ。



撮影・鈴木純一「八時まで菫はさいていますか? いえ」↑

0 件のコメント:

コメントを投稿