安里琉太第一句集『式日』(左右社)、投げ込みの栞は、岸本尚毅「ふとみたり」、鴇田智哉「共時代へのいざない」、鳥居真里子「雲籠めの白花」。帯の惹句には、
到来し、/触発する/言葉。
書くことは、/書けなさから始まっていると、/今、強く思う。
と、ある。集名に因む句は、
式日や実石榴の日に枯れている 琉太
その「式日」は、鳥居真里子の栞文によると、庵野秀明監督の映画作品「式日」に由来しているらしい。「鳥」つながりで言えば、本集には鳥の句が多い。例えば、
書き出しのすでに日暮れて浮寝鳥
筒鳥や芥かがよふ沼の面
小鳥来るほほゑみに似て疎なる川
炎昼は未生の鳥を浮かべたる
鳥発たす秋思いつしか鉈の形
銀ふちの眼鏡に椋鳥のうつりこむ
郵政や鳩あをあをとして冬は
鴨去つて春のがらんとしてゐたり
陶片の鋭さをもて囀れり
老鶯や斜めに弱る竹箒
三人に鶉の籠の暮れてをり
秋澄むや水のおもてに鳥の糞
ひよひよろと鳥のうからが花の中
茶の花や鶏小屋に常の闇
畳替へて鳥の高さにまろびけり
うぐひすのこゑに小さく畳む紙
などである。愚生が安里琉太の名をはっきりと記憶に留めたのは、一年ほど前だろうか。望月至高の個人誌、「句・詩・評論/自立の言論」のサブタイトルのついた「奔」誌の沖縄特集号であった。
ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。
芹の根をひきたるみづの昏さかな
日本の元気なころの水着かな
ひきかへすためのあしあと春の浜
流れつくものに海市の組み上がる
まだ誰の手にも汚れぬ焚火かな
春暁や何の忌となく雨が降り
永き日の椅子ありあまる中にをり
安里琉太(あさと・りゅうた) 1994年、沖縄県生まれ。
撮影・鈴木純一「八時まで菫はさいていますか? いえ」↑
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