2016年3月3日木曜日
田中いすず「九十や浮力のような風邪をひく」(「歯車」367号)・・・
田中いすずは大正14年6月、長野県生まれ。
ブログのタイトルに掲出した「九十や浮力のような風邪をひく」は「歯車」368号の「歯車感銘句十句(367号より)と題した浦川聡子(「晨」同人)の選出句からのもの。従って「歯車」前号に掲載された句である。田中いすずには年齢を超えるあるかろやかさのようなものがある。みずみずしい感性の作家というイメージなのだ。どうやら九十歳を超えた感懐の句ということになろうが、「浮力のような風邪」は悪くない。今号にも「短日をたのしさが身についてくる」「あによめが兎を抱いている生家」などの句、愚生にはとうていできそうにもない句ばかりで、羨ましい。
「歯車」は元をたどると故・鈴木石夫が代表つとめ、編集には大久保文彦が創刊時から担当している。前身は昭和30年創刊の「風」(代表・吉田好風)、31年「歯車」と改題し、若者、新人主体の雑誌として出発した。歴史の古い俳誌だ。現在は前田弘が代表をつとめている。少年のような若い時から林桂、青木啓泰、田口武、柿畑文生、松田正徳、藤みどり、佐藤弘明などが同人でいる。愚生が「歯車」誌を恵まれるようになったのは、愚生20歳代、ともに「未定」同人であった佐藤弘明の手配によるものだ。
現在、同誌のなかでは「豈」同人の、杉本青三郎がなかなかの活躍をしている。
今号「歯車」368号より、以下に、いくつか挙げておこう。巻頭の特別作品は、岩手県北上市に住む松田正徳「東日本大震災以後」50句。
二月尽 除染は終わった事にする 松田正徳
哀しみの色で抽けば 芒原
死後に読む埋め草青々と枯れ 前田 弘
初暴力とは気付いていないらし 阿武 桂
結界の中 冬眠の蛇の鼓動 梅木俊平
日が射すと白鳥ははばたく姿勢 大坪重治
木枯しや山の下から暮れて行く 佐藤弘明
はるかなる枯野の白になりにゆく 杉本青三郎
一対の骨よりさくら吹雪けり 藤 みどり
まぐわいの声を殺して暖かし 藤田守啓
ミモザ↑
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