2018年3月21日水曜日
木本隆行「地震くるな戦よくるな浮いて来い」(『鶏冠』)・・・
木本隆行第一句集『鶏冠』(ふらんす堂)、序文は鈴木節子、栞文に鳥居真里子。句集名は、次の句から、
鶏冠の吹かれてをりぬ秋の昼 隆行
序文には、慈母のように、木本隆行に対する希望と期待が籠められている。
本物の俳句である。いくらでも取り上げたい作品がある。心象的、風景句、虚実皮膜の句。素材を自由に駆使する木本隆行君は、わが「門」のホープである。俳句と評論の二本のレールを走る。
と、その期待に応えるように、著者「あとがき」には、
俳句の本質とその構造について理解を深める努力を今後もして行きたい思います。
と謙虚ながら志がを述べている。本集には、木本隆行の様々な心情がよく現れていると思うが、とりわけ師・鈴木鷹夫に対する想いは深い。例えば、
先生の鞄重たし蟬時雨
先生に妻の句多し小鳥来る
鉦たたき師の添削の一字かな
師を亡くしてからは(鈴木鷹夫は2013年4月10日死去)、師に添うように句作を進めている。
先生の忌の近づけり松の芯
桜蕊ふる先生の忌日なり
朝顔を蒔きて波郷に鷹夫かな
先生の声よく徹る朝ざくら
波郷忌の裸木にあるぬくみかな
ともあれ、集中より、他の幾つかを挙げておきたい。
エレベーターの中に鏡や赤い羽根
鳥獣を養ふ山の笑ひけり
一八を挿す餞別のごとく挿す
風のこゑ光のこゑの木の葉かな
花は風かぜは花なりさくらなり
少年の肘・膝・拳青あらし
虹とといふ天の即興ありにけり
わが影を泉へおとし掬ひけり
ところで、本集と同時に届いた「門」4月号には、兼題〈伝〉(鳥居真里子選)の特選に、
冬天に伝書鳩たましひは何処 木本隆行
の句があった。ついでと言っては恐縮だが、同号の「門」から現在の主宰、副主宰そして鷹夫の一人一句も挙げておこう。
指組めば指が湿りぬ櫻草 鈴木鷹夫
老人のわるさごころや竜の玉 鈴木節子
象にふる象のかたちの春の雨 鳥居真里子
木本隆行(きもと・たかゆき)、1969年、東京生まれ。
撮影・葛城綾呂 開花宣言前日の桜↑
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