2018年3月8日木曜日
塩野谷仁「みずうみに水あつまれる朧かな」(『夢祝』)・・
塩野谷仁第8句集『夢祝』(邑書林)、集名は、
いまは昔のけむり真っ白夢祝 仁
の句から。平成26年から平成29年末までの作品を収めた第8句集なのだが、「あとがき」には、
この間を含め、頃日、「姿情一如」ということを主張している。「姿」とはあくまで「定型」のことで、「情」とは「自己表現」のこと。もちろん、江戸俳人の加舎白雄の「姿先情後」(感情より姿が優先するの意)のもじりなのだが、、「姿」を優先すれば「只事」に終わる傾向があり、「情」に徹すれば「難解」に陥ることになる。もともと「姿」と「情」は一如のもの。これを大切にしたいということでもあった。そして「自己表現の」根底はやはり「叙情」にあると思っている。だが、ここでいう「叙情」とは心情表現といった程度の「抒情」ではなく、金子兜太の言う、「存在感の純粋衝動」に裏打ちされた「叙情」のことでもあった。
と述べられている。とはいえ、さすがに年輪を重ねた分だけ追悼句が目立つのはやむを得ないことかもしれない。もとより情の人なのだ。
悼 土田武人
一徹者なりし晩夏の木を揺すり
悼 大谷昌弘
寡黙なる友なりき蟬果てにけり
悼 佐藤信顕
磊落の人ひぐらしの中を逝く
悼 大畑等
還らざる声あつめ居る一冬木
田浪富布
愚直とも雌伏とも鳰また潜る
ともあれ、集中より愚生好みでいくつかの句を挙げておこう。
人麻呂の乗り込んでくる宝船
ここからは記紀以後の闇金木犀
人消えて次の人くる大夏野
きさらぎの水追う水の底力
啞蟬をいくつ囲んで蟬しぐれ
山茶花咲いたかかの川は晴れているか
塩野谷仁(しおのや・じん)、1839年、栃木県生まれ。
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