2019年3月14日木曜日

梅元あき子「ソメイヨシノ石狩川を北限に」(『大氷柱』)・・



 梅元あき子句集『大氷柱』(金雀枝舎)、集名の由来については、著者「あとがき」に、

 表題の「大氷柱」は、わたしが生まれた北海道釧路市の風景からイメージした。積雪量は比較的少なかったが、濡れた道路はいつも凍っており、どの家の屋根にも氷柱が下がっていた。

とある。その氷柱を詠んだ句に、

  手の届く氷柱払へば楽器音      あき子

がある。極寒の地であれば、その氷柱の折れる音は、乾いた金管の音に近いのかも知れない。今頃は流氷の時期かもしれない。懇切な序文は今井聖、その結びには、

 (前略)テーマを分けてどの傾向をとってもあき子さんの個性が生きている。もう技術的にはこれで十分、これ以上巧くならないように留意しながら自分の赤裸々な過去と生々(なまなま)しい現在を見つめてほしい。

と記している。著者の生まれ育ったのが、釧路市大楽毛(おたのしけ)という地名、昭和の前半までは馬市で知られた町であったという。
  
  馬市や秋夕焼の大楽毛(おはのしけ)

ともあれ、いかに以下にいくつかの句を挙げておこう。

  流氷が近づくほどに乳の張り
  敗戦日父は必ず散髪に
  朝凪や戦の予感いつも海
  グラマンの弾痕夕立の国道駅
  空蝉の重力微か葉に残し
  大花野機関車トーマスより降りて
  バクテリア五億は踏んで椎拾ふ
  大枯野寝釈迦の足の揃はざる
  ロシアンティー隣りの席は葱の束
  浮寝鳥励まし合ふこと嫌ひなり

梅元あき子(うめもと・あきこ) 1939年、北海道釧路市生まれ。



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